気候変動に向けた備え
気候変動は既に、IT企業の運営方法に大きな影響を及ぼしている。MicrosoftやAWSといった企業は、データセンターの建設地を選定する際に、電力コストが低い地域を優先している。今までであれば、こういった地域はシリコンバレーや北部バージニア、ダラス/フォートワースだったが、最近ではアトランタやフェニックスが選定されるようになってきている。またこれら企業はデータのやり取りを円滑にするために、AT&TやVerizon Communications、Lumen Technologies(旧CenturyLink)といった通信企業や、Charter CommunicationsやComcastといったファイバーネットワークプロバイダーが提供するインターネットのインフラについても考慮している。さらに、洪水やハリケーン、地震など自然災害のリスクも評価している。
そして、自然災害への備えであるか、停電への備えであるかにかかわらず、データセンターサービスを提供している企業は、ネットワークレベルでの冗長性も確保している。
AWSにおいて世界規模でのサステナビリティーと温室効果ガスの担当責任者を務めていたChris Wellise氏は、「可用性とセキュリティを考慮したかたちでデータセンターの設計と運用を進めていくという当社の指針により、気候関連の高まりつつあるリスクに対する実際の備えが整った」と述べた。
データセンターは、バックアップシステムの冗長性や非常用電源を確保しておくことで、何らかの問題が発生してもセンター全体の停止につながらないよう保証できる。また「AWS」や「Microsoft Azure」といったデータセンターのネットワークを活用した冗長性の確保によってデータの同期が確実に実現される結果、データセンターが停止したとしても、クライアントのウェブサイトやサービスに支障が出ることはない。さらに、AWSとMicrosoftの両社はアベイラビリティーゾーンと呼ぶシステムを備えている。これにより、ある地域内のゾーンが停止しても、そのゾーンと接続しており、同じ自然災害の影響を受けない程度に離れている他のゾーンがサポートに入ってサービスを継続するようになっている。
Wellise氏によると、AWSは地域環境の特性に合わせたかたちでゾーンを用意しているという。同氏は「米国北西部のような場所で当てはまる話は、インドやシンガポールでは当てはまらない可能性がある。稼働率とレジリエンスに対する懸念は、特定地域における電力供給の問題で発生するかもしれないし、洪水によって発生するかもしれない」と述べた。同社のデータセンターでは、2021年12月に発生したソフトウェア障害に起因する3度のサービス停止を除けば、2012年のハリケーン・サンディ以来、ゾーンという取り組みへの注力のおかげでサーバーやサービスの障害は発生していない。
Wellise氏は「稼働率とレジリエンシーの実績が全てを物語っている」と述べた。
データセンターの規模拡大によって効率を飛躍的に向上させた大手IT企業は、温室効果ガスのフットプリントをさらに低減する目的で、間接的手段に目を向けるようになっている。
これにより企業は「エンボディードカーボン」、すなわち施設の建設に用いられる建材の製造時に発生するCO2を考慮するようになっている。その例として、再生可能エネルギーを用いて精錬した鋼材や、製造時にCO2排出量の少ないコンクリートへの切り替えを挙げることができる。