NVIDIAは3月22日、三井物産と協業し、創薬を支援するスーパーコンピューター「Tokyo-1」を推進すると発表した。高解像度分子動力学シミュレーションやジェネレーティブ(生成系)AI モデルなど、創薬を加速する技術で製薬業界の発展を狙ったイニチアチブになる。
Tokyo-1は、技術カンファレンス「NVIDIA GTC 2023」で発表された。人工知能(AI)開発や高性能コンピューティング(HPC)などの大規模計算向けに専用設計された「NVIDIA DGX」で構築されたスーパーコンピューターで、日本の製薬会社やスタートアップ企業が利用できるようになる予定。2023年後半に稼働を開始する見込みとなっており、三井物産の子会社で計算創薬に特化したゼウレカが運用するという。
日本の製薬業界は長年、新薬承認の遅延(ドラッグラグ)に悩まされてきたという。新型コロナウイルス感染症のワクチン開発競争でも改めて注目を集めた。国内の製薬会社は、この問題を解決するための施策の一つとしてAIの導入を挙げており、AIは業界の医薬品開発パイプラインを強化、加速するための重要なツールと捉えている。
創薬のためのAIモデルの訓練や調整には、膨大な計算資源が必要となる。今回のプロジェクトの第一段階として、TensorコアGPU「NVIDIA H100」を8基搭載したシステム「NVIDIA DGX H100」が10台以上導入される予定。DGX H100は、GPUアーキテクチャー「NVIDIA Hopper」をベースとしており、生物学や化学のための生成系AIモデルを含むTransformerモデルの学習を加速させるために設計された「Transformer Engine」を搭載する。ゼウレカでは、プロジェクトの拡大に合わせてノードを追加する予定。
Tokyo-1のユーザー企業は、スーパーコンピューターの専用サーバーにアクセスできるほか、ゼウレカとNVIDIAによる技術サポートを受け、両社が開催するワークショップに参加することなども可能。そうした費用もTokyo-1の利用料に含まれるとしている。より多くの計算資源を必要とする大規模なトレーニングを行う場合、より多くのノードを持つサーバーへのアクセスをリクエストできるという。分子動力学、ドッキング、量子化学、自由エネルギー摂動計算といったゼウレカのソフトウェアも購入可能となっている。
また、Tokyo-1上でソフトウェア「NVIDIA BioNeMo」を使用することにより、研究者はタンパク質構造の予測、低分子化合物の生成、骨格推定などの用途で、最先端のAIモデルを数百万、数十億のパラメーターに拡張できるようになるとのこと。
既に日本の複数の大手製薬会社がTokyo-1を利用する予定となっており、アステラス製薬や第一三共、小野薬品などの名前が挙がっている。加えて、製薬業界だけでなく、日本の医療機器大手や国内スタートアップにもTokyo-1を開放するほか、「NVIDIA Inception」プログラムと連携を図ることで世界中のヘルスケアスタートアップが開発したAIソリューションを活用できるようにするとしている。