米テック企業の人員削減が加速する。コンサルティング企業のアリックスパートナーズによると、2022年6月から2023年1月までにレイオフ(一時解雇)を実施した米企業は月平均170社になる。インフレや金利上昇、経費削減などの圧力があるという。電気や通信、情報サービスなど日本のIT企業を担当する同社 パートナー&マネージング ディレクターの熊谷孝史氏は「米国固有の状況がある」としながらも、事業ポートフォリオの見直しが進むと見る。同社の資料と熊谷氏への取材からその背景と影響を探った。
Googleなど米国のテック大手がレイオフに走った根底には、雇用の流動性にあるという。端的に言えば、業績が好調な時は大量に採用して、悪化したら辞めてもらう。事業再編などで仕事がなくなった担当者らや、パフォーマンス不足の従業員を解雇するといった具合だ。株式市場への影響を考え、業績がそれほど悪くなくてもジェスチャーが必要になることもある。
今回の動きで特徴的なのは、レイオフ対象がITエンジニアであるということ。これまでエンジニアの需要は高く、賃金の上昇や過剰な採用を反省する面も否めない。プログラミング作業の効率化や自動化も雇用に影響している。プラットフォームビジネスはいったん立ち上がってしまえば、エンジニアを多く抱えておく必要がなくなる。
米Microsoftや米Salesforceなどでレイオフが広がっているのは、「この十数年はアクセルを踏んだままの経営だった」と右肩上がりの採用を続けていたことにある。必要以上に多くの人材を採用したのは、将来の成長への期待もあったのだろう。だが、急速に雇用を拡大したため、大きな調整が必要になった。もちろん、米Twitterのような固有の問題もあるが、「赤信号みんなで渡れば怖くない」と言わんばかりに、この機に乗じて人員整理を進める企業も現れたと熊谷氏は推測する。
米IBMや独SAPなど伝統的なITベンダーも人員削減を実施する。熊谷氏は「通常の人員調整の範囲」と見る。組織が大きくなっていくと、いろいろな問題が表面化する。余剰となった領域から成長の見込める領域へと、組織の新陳代謝を図る必要もある。米The Walt Disney Companyがメタバース部門を解散するように、新しい成長の芽が大きく育つことなく中断に追い込まれることもあるだろう。
注目したいのは、米Accentureが3月末に1万9000人の削減を公表したこと。ITサービスの需要低迷などが背景にあると報道されているが、熊谷氏は「精査してみなければ分からない」と前置きし、削減対象は付加価値があまり高くないプログラマーやビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)などの余剰人員になると見る。
いずれにしろ、過剰雇用を是正するため何度もレイオフを繰り返せば、企業の倫理観や評判、生産性を損なう恐れがあり、残った従業員の士気の低下や心身の疲労につながりかねない。アリックスパートナーズでは、人員削減は迅速に実施し、最大2回・2ケタパーセントの規模で実施することを勧める。