認知科学者のBen Goertzel氏によると、世界は人工知能(AI)テクノロジーの歴史的瞬間の真っただ中にあるという。AIを搭載した人型ロボットの「Sophia」の共同開発者として知られる同氏は、AIテクノロジーについては多大なハイプがあると認めながらも、生成型AIを支える大規模言語モデル(LLM)は世界を変革する可能性を秘めていると確信している。
同氏は、「ChatGPT」などを支える生成型AIモデルには、人間が現在こなしている多くの仕事を担うようになる可能性があると考えている。
同氏は、「人間が実行しているほとんどの仕事は、途方もない創造性や革新性を要しておらず、著しい進歩を必要ともしていないことが分かってきた」と述べた。
さらに同氏は、AIツールが人の仕事の大部分を担うようになる結果、業界の再編や、仕事の再割り当てが発生する可能性についても指摘した。例えば、ファーストフードのドライブスルー店で働く人々や、ニュース記事の校正担当者などがAIによって影響を受ける可能性がある。
同氏は「『Grammarly』のようなツールによって、人間の校正担当者の必要性を減らすことができる」と述べ、「このようなツールによって(仕事の)すべてがなくなるわけではないが、必要性を減らすことはできる。自動化ツールは報道関係の記事を執筆するために利用できる。こういったツールはかなり以前から、スポーツのスコアを要約したり、天気予想を執筆したりしてきている」と続けた。
にもかかわらず、同氏はAIによる置き換えができないと考えている主な分野を2つ挙げている。それらは人とのやり取りに依存する分野と、画期的な創造性を必要とする分野だ。
同氏は「このため、人と接することがその本質であるような仕事は、なくならない分野の1つと言えるだろう」とした。例えば、幼稚園の先生や保育士、政治戦略家や芸術家といった仕事だ。
生成型のAIチャットボットはとてもパワフルであるため、このようなシステムが意識を有しているかどうかという疑問を抱かないでいるのは難しい。
同氏は、それはどうでもよいことだと述べた。
同氏の考えによると、人間は他の人間の意識を受け入れる場合と同じように、汎用人工知能(AGI)の自己認識を、自らの直感や本能的理解に基づいて受け入れるようになるという。
同氏は「私は、人間と同等、さらには人間を超える思考機械を実現する上で、意識という未解決の哲学的課題を解決する必要があるとは考えていない」と述べ、「しかし、こういった疑問を不適切なものにすることができると考えている」と続けた。
また、「限定的(特化型)」と見なされるAIモデルとAGIの違いについても言及し、AGIはこれから人間のような思考力や創造力を身につけると強調した。さらに、開発者がこれまでにないほどAGIの実現に近づいていると指摘した。同氏は、AGIが3~10年以内に画期的な進歩を遂げるかもしれないと予測している。AI技術の現状はAGIではないが、LLMとマシンリーズニング(機械推論)、進化的学習を組み合わせれば、AGIに向けた進歩が加速すると楽観視している。
(現在の生成型AIは)「非常に多種多様なトレーニングデータを備えるだけでAGIのように見せかけられる」「そうしたトレーニングデータだけでも驚異的な力を示すのに十分だ。それだけでもコンピューターネットワークとマルチGPUのサーバーファームの力を証明している」(Goertzel氏)
同氏は、AIと意識をめぐる哲学的疑問にも触れた。時間の概念を引き合いに出し、時間に関する哲学は未決着のままだが、人類は相対性理論が予言する時間の遅れを利用するようになったと指摘し、AIやAGIで同様のアプローチが取られ、哲学的な回答が得られなくても大きな前進を遂げられる可能性があることを示唆した。
同氏の知見はAIの未来について一端を示し、AGIが世界に大変革をもたらす可能性について楽観する同氏の姿勢は、AIが社会にもたらすかもしれない影響を否応なく考えさせる。高揚した見方であれ、警戒した見方であれ、AIとAGIの進歩がこれから何年も深い思考と議論を招くのは確かだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。