不確実性の時代に、アジャイル開発で向き合っていこう

第7回:モチベーションを生かし、力を発揮するためのリーダーシップ - (page 2)

岡本修治 (KPMGコンサルティング)

2023-04-25 07:30

 そのような「ナレッジワーカー」を率いることは、一般的な労働者を率いるのとは異なる振る舞いが要求されます。端的に言えば、一般的な労働者を率いる場合は目標を共有し、強み(得意分野)を生かすような仕事を与えるのが有効です。各人の強みが何なのかを気づかせ、達成感を味わわせることで自信や誇り、責任感が生まれます。一方、ナレッジワーカーの場合は自身の強みを既に理解しており、共有された目標に到達する上で自身の仕事をどう行うかは自己決定できます。彼らは優れた仕事とは何であり、そのために何をすべきかを理解しており、何人たりともそれらを彼らの代わりに決めて統制することはできないのです。目標への理解を得られたら一流の成果を彼らに求め、それを阻害する要因を一緒に取り除くといった支援が重要になってきます。

 「他人の仕事がたやすいように見えるのは、君の知識が足りなすぎるからだ」とは、Fairchild SemiconductorとIntelの共同創業者のR. Noyce氏がSteve Jobs氏に贈った51の戒めの言葉の1つです。人は誰しも自分の能力を超える相手を適切に評価することは難しく、導くとなればなおさらでしょう。大谷翔平選手の二刀流を育んだ栗山英樹氏、藤井聡太6冠を育んだ杉本昌隆氏の両氏のコメントからは、これらのかつて遭遇したことのない才能を如何に開花させるかを日々呻吟(しんぎん)し、万が一壊してしまったらどうしようという恐怖とも戦い続けていたことが伺えます。

 これらは究極とも言えるケースですが、かつて自身が名プレイヤー(専門家)であったり、優れた管理者(指揮者)としての監督であったりといった往年のヒーロー型のリーダシップモデルとは異なる、能力を開花させる(育成者)としてのリーダーシップが求められているのです(図1)。

図1(D. Bradford氏ほか著 「Power Up:Transforming Organizations Through Shared Leadership」, 1998を基にKPMG作成)
図1(D. Bradford氏ほか著 「Power Up:Transforming Organizations Through Shared Leadership」, 1998を基にKPMG作成)

 なお、図1の左側に示す「専門家型」と「指揮者型」の2つのリーダーシップが全面的に悪いということではなく、特に経験の浅いメンバーを率いるようなケースでは有効に機能する場合もあるでしょう。ただ、専門家型や指揮者型のアプローチの深刻な欠陥として指摘しておきたいのは、メンバーがどれほど努力しようとも真の問題や真の価値がリーダーに理解されず、結果としてメンバーは能力を過小評価されていると感じ、一方のリーダーも負荷が自分一人に集中しすぎているとネガティブに感じるケースが往々にして見られることです。

「成功したのは、(伝統的な)PMがやっていないから」

 ここまで読まれて、理想や理屈はともかく、リーダーは大変だと思われた方も多いと思います。もっともなことですが、心配する必要はありません。一人で全てを行う必要はないのです。

 筆者がかつて関わったアジャイル開発への移行支援プロジェクトに参画していた若手のメンバーの一人がインタビューを受けた際、「あのチームが成功した一番の理由は、(伝統的なスタイルの)PMがやっていないから」とコメントしていたと聞いたことがあります。プロジェクトマネージャー(PM)という言葉で当人がどのようなスタイルを想定していたのかまでは分かりませんが、恐らく念頭にあったのは図1の「専門家型」ないし「指揮者型」のスタイルでしょう。実際、筆者の目から見て当時のチームは、ビジネスドメイン、技術ドメインそれぞれに長けたメンバーを集めた結果、複数ベンダ―混在で、単一スクラムチームの上限に近い8人という比較的大きな編成でした。全員がアジャイルを実践するのは初めてで、実装に使用するPaaSサービスも全員ほぼ初めて、というチャレンジングな編成・取り組みであったにもかかわらず、4カ月という短期間でBtoC向けアプリケーションを無事リリースしていました。

 その最大の理由は、「ナレッジワーカー」であるメンバー各人がそれぞれの得意領域でリーダーシップを発揮しつつ、ひとたび問題が起きれば誰が音頭を取るともなく集まって対策を協議し解決する、「シェアード(共有型)リーダーシップ」が実現されていたためと感じます。PMが管理、指示する伝統的なコマンド&コントロール方式ではなく、その時々の対象領域と状況に応じ、全員がリーダーにもフォロワーにもなるのです。

 実際に、経営学の世界においてもシェアードリーダシップの利点は以前から語られてきました。2008年のHarvard Business Review掲載の記事「Leadership as a Task, Rather than an Identity」(アイデンティティーではなく、タスクとしてのリーダーシップ)は、マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイング・ゲーム(MORPG)におけるプレイヤーの行動の観察結果から興味深い結論を導いています。曰く、プレイヤーたちはごく自然な流れで役割(ロール)を変更し、他のメンバーに指示を出していた次の瞬間には彼らの指示を受けているのです。

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