不確実性の時代に、アジャイル開発で向き合っていこう

第7回:モチベーションを生かし、力を発揮するためのリーダーシップ - (page 3)

岡本修治 (KPMGコンサルティング)

2023-04-25 07:30

 誤解なきよう補足すると、リーダーシップは厳然として存在するものの、状況は刻々と変化し、個々の状況における最適任者が自然にリーダーシップを取ることを促します。権威あるものが中央集権的な形でリーダーを務めるのではなく、状況に応じ立候補などの形で自然と決まる、よりフラットで分散型のリーダーシップなのです。

 従来のリーダーシップ論においては、先天的か後天的かに関らず、リーダーとしての能力は個々人が内包するものと考えられていましたが、先の記事は、「より優れたリーダーシップを欲しているのなら、リーダーを変えようとするのではなく、なぜゲームそのものを変えないんだい?」という、とあるプレイヤーの謎かけのようなコメントを引き合いに出し、もしかすると、リーダーシップそのものより大事なことはリーダーシップを発揮できるような環境(状況を把握するための、広範にわたる正確な情報と透明性)であるのかもしれない、と結んでいます。

「私」ではなく「我々」

 2年に一度開催されるゴルフのイベント「ライダーカップ」は、欧州代表と米国代表が名誉だけを賭け賞金ゼロで戦うチーム戦で、世界的なスポーツイベントの1つとされています。当初は英国対米国で始まったのですが、1985年からは他の欧州諸国が加わるフォーマットとなり、毎回熱戦が繰り広げられています。

 2014年大会において、ある欧州代表の選手がインタビューにおいて、「戦うのは『私(I)』ではなく『我々(We)』だ。勝つときも負けるときも、常に1つのチームとしての『我々(We)』なんだ」と鬼の形相でカメラに語り掛けました。また別の関係者は「米国は(ゴルフに関して)全てを手にしている巨人だ。ゴルフで世界一になるために大金を投じ、それがまた新たな大きなビジネスを生み出す。だが我々は我々のやり方で、彼らのやり方だけが正解ではないことを証明するためにここにいるのだ」と、ものすごい剣幕で語っていました。

 率直に言って、この連中だけは絶対に敵に回したくない、と心底思わせる迫力で、戦う前から勝負は決していたように思います。通常の大会の戦績を基にしたスタッツは明らかに米国チーム有利を示しているのですが、欧州チームには、なぜかライダーカップのチーム戦に限り、実力以上のものを発揮してしまう選手が何人もいるのです。

 P. Drucker氏も、チームをマネージするという「マネジメント中心」の考え方から、「チーム中心」の考え方への移行を提唱しています。曰く、優れたリーダーは絶対に「私(I)」とは言わない。「私(I)」で考えない。「我々(We)」で考え、「チーム」で考える。彼らは、チームを機能させることが仕事だと分かっているのだ。彼らは責任を回避せず受け入れ、手柄は「我々(We)」全員のものと考える。これが信頼を醸成し、仕事をやり遂げる原動力となるのだ、と語っています。もちろん、言葉だけではなく、実行が重要です。「95%のマネジメントは正しいことを言う。5%が実際にそれを行う」(注3)という耳の痛い言葉もあるのです。

(注3)J. O’Toole氏、デンバー大学、ビジネス倫理学教授

チームの機能不全を克服する

 P. Lencioni氏が著した「あなたのチームは機能していますか?」では、不幸にしてチームが機能していない場合、そのチームは5つの落とし穴のいずれかにはまっているとしています。図2の左側のピラミッド部分がそれですが、これらは階層構造になっており、最下層にある「信頼」を醸成することがまず重要です。

図2 チームの5つの機能不全と、それらのアジャイル(スクラム)による克服の仕組み(P. Lencioni氏著「あなたのチームは機能していますか?」 翔泳社、2003年 を基にKPMG作成)
図2 チームの5つの機能不全と、それらのアジャイル(スクラム)による克服の仕組み(P. Lencioni氏著「あなたのチームは機能していますか?」 翔泳社、2003年 を基にKPMG作成)

 最下層の「信頼」の醸成に役立つアジャイル(スクラム)のプラクティスについては、ふりかえりや心理的安全性など、これまでの連載において解説済みのものもあれば、紹介しきれていないものもあります。後者については、今後の連載の中で可能な限り紹介していきたいと考えていますが、大事なことは、それらの具体的なプラクティスを成り立たせるのは、我々が高等な哺乳類として本来的に持っている知的好奇心であり、卓越した専門性であり、時に遊び心であり、それらを生かして何か意味のあることを成し遂げたいというモチベーションを開放し遺憾なく力を発揮させる、育成者としてのリーダーシップだということです。

岡本 修治(おかもと・しゅうじ)
KPMGコンサルティング Technology Strategy & Architecture シニアマネジャー
外資系総合ITベンダーにおいて大規模SI開発をはじめ、ソフトウェア開発プロセス/ツール展開のグローバルチーム、コンサルティング部門などを経て現職。金融、製造、情報通信など業界を問わずITソリューション選定、開発プロセスのアセスメント(評価)と改善、BPR支援などさまざまな経験を有し、中でも不確実性の時代と親和性が高いアジャイルトランスフォーメーションを通じた意識改革、開発組織の能力向上支援をライフワークとし注力している。

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