不確実性の時代に、アジャイル開発で向き合っていこう

第8回:デザイン思考、DevSecOps--単なる開発を超えて(前半)

岡本修治 (KPMGコンサルティング) 和田英樹 (KPMGコンサルティング) 新田明広 (KPMGコンサルティング)

2023-05-17 07:30

梗概

 現代社会は多くのものがソフトウェアで成り立っており、絶えず変化するニーズに応じられる柔軟でスピーディーな開発が求められています。その一方、何が正解(ゴール)なのかが分からない、という不確実性の時代でもあります。不確実性に対処するには「アジャイル開発」が最も有望ですが、その成功裏の実践には、従来の常識の解体と再構築が必要です。エンタープライズにおけるアジャイル開発の実践が待ったなしの状況の中、理論、課題、近年の動向も踏まえ、実例を交えながら幅広く解説します。

アジャイル開発の効果を高めるために

 これまでの連載において、アジャイル開発の生い立ちや基本的な考え方(第1~3回)、従来型開発との対比において誤解されがちなポイント(第4〜5回)、メンバーの自己規律やリーダシップの在り方(第6〜7回)など、アジャイル開発のコアとなる方法論やマインドセットについて一通り見てきました。今回は、開発前にそもそも利害関係者を困らせている問題をいかに識別し開発へのインプットとするか、あるいは開発後にソリューションを維持・発展させていくためにいかに運用と連携していくかといった、開発の前後の活動も含めたライフサイクル全体の最適化について解説します。

 なお、当初の予定では第8回で前述の活動全てを解説する予定でしたが、ボリュームの関係から前編と後編の2回に分け、前編で開発に入る前の問題識別とアイデア出し、後編で開発後の運用について解説します。

 アジャイル開発を実践することで市場への適応力は格段に向上します。しかし、開発部分だけが向上しても、市場に対して素早く適合することが難しい場合があります。理由としては、開発の前段にあるビジネス面でのニーズの具体化と、開発後に実施するプロダクトの市場への提供を、従来の発想とスピード感で行っていては、結果としてニーズとのギャップが生じ、市場の変化にはついていけません。つまり、ビジネスとしての企画から開発、そして運用までを連続した流れで精度よく素早く実践していくことが重要です。

 ビジネスの企画から開発、そして運用までの連続したアプローチの考えは、情報処理推進機構(IPA)が発行した「DX白書2023」でも紹介されており、開発の前段であるビジネス面でのニーズの具体化を素早く実施する手法として「デザイン思考」を、品質を高めながらリリース頻度も上げていく考えとして「DevSecOps」が挙げられています(図1)。もちろん、アジャイル開発の文脈の中でも、ニーズの具体化や運用の精度とスピードの向上はされていきますが、「デザイン思考」と「DevSecOps」の手法を併せて活用することで、アジャイル開発をさらに洗練させて実践することが可能となります。今回は特に開発に入る前のニーズを具現化する「デザイン思考」について説明していきます。

図1:ビジネス・開発・運用までの連続したアプローチ(情報処理推進機構「DX白書2023」を基にKPMG作成)
図1:ビジネス・開発・運用までの連続したアプローチ(情報処理推進機構「DX白書2023」を基にKPMG作成)

 あらかじめお伝えしますと、デザイン思考は、プロダクトの造形をデザインする手法ではありません。デザインという言葉が誤解を生みがちですが、デザイン思考とはビジネスをデザインする、すなわちユーザーの困りごとの根底にある課題を把握し、その解消に合致するビジネスモデルを考え、必要なプロダクトのスコープを策定することです。ユーザーにプロダクトが渡った後の体験も想定し、必要なサービスをビジネスモデルに組み込みます。このように、ユーザー体験を中心としたビジネスをデザインするのに適した手法が、デザイン思考なのです。

 また、デザイン思考で扱うユーザーは、BtoCのカスタマー(顧客)だけに限りません。BtoBtoCやBtoBといった企業間のビジネスにおいても、ユーザーの設定の仕方によってデザイン思考を適用することができます。例えば、ある企業の人事部の課題を解消する場合に、人事部が求人で募る外部の個人を対象にするのか、人事部が担当する社内の社員を相手にするのか、もしくは人事部内の担当者をターゲットにするかによってユーザーの設定を変えて適用することで、幅広く活用することができます。

躍進する世界と停滞する日本

 デザイン思考の本場であるスタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所(通称「d.school」)においてデザイン思考のコーチングを学んだ吉成雄一郎博士から伺ったお話によると、「デザイン思考は、米国のシリコンバレーでIT関連に従事している者で知らない人はいないほど普及しており、イノベーションを生み出す土台(PCのOSのような存在)となっている」「スタートアップ企業のアイデアを評価する際には、必ずデザイン思考を用いた検討がなされたかが問われる」とのことです。また、「DX白書2023」でも、米国全土で6割近くの企業がデザイン思考を活用しており(図2より、「全社的に活用」と「事業部で活用」の割合を合計して換算)、加えて米国にいたっては、アジャイル開発以上にデザイン思考を活用する企業が多いといった報告があります。

図2:手法の活用状況(情報処理推進機構「DX白書2023」を基にKPMG作成)
図2:手法の活用状況(情報処理推進機構「DX白書2023」を基にKPMG作成)

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