サイボウズは7月13日、「Cybozu Media Meetup Vol.12 地銀が変われば、地方が変わる。地方が変われば、日本が変わる。」と題するイベントを開催し、地方銀行とサイボウズの協業事例を紹介した。
サイボウズ パートナー第1営業部 部長 渡邉光氏
サイボウズ パートナー第1営業部 部長の渡邉光氏はまず、地方における中小企業のDXの現状を説明。地方の中小企業は依然としてDXが遅れている状態であるとした一方、経済産業省の委託で野村総合研究所が実施した「令和2年度中小企業のデジタル化に関する調査に係る委託事業 報告書」を引用して、デジタル化を実施した中小企業の半数以上が業績に好影響を及ぼしたと実感していると解説した。また、経営課題の解決や目標達成のためにデジタル化を実施する企業が増えてきている現状から「デジタル化の支援とは企業の本業を支援することだと考えている」と同氏は語る。
サイボウズでは、地方における中小企業のデジタル化を支援するため、地域に根強く信頼関係を築く地方銀行と連携している。地方銀行に「ICTコンサル実働部隊」を設置し、サイボウズのパートナー企業と連携しながら顧客にコンサルティングや提案を行う。例えば、愛媛県の銀行が同県のパートナー企業と連携し、同じく愛媛県の中小企業に対してデジタル化支援をするという「地産地消のビジネスモデル」を作り上げている。
サイボウズと地方銀行との協業体制
同氏は「地方銀行が経営目線と業務目線の2軸でコンサルティングを行うことで、よりお客さまの本業支援につながるのではないかと考えている。地方銀行はステークホルダーから本業支援を求められているため、地方銀行としてもデジタル化の支援がお客さまの本業支援になるのではないか」と地方銀行との協業の意義を説明した。
同氏はまた、サイボウズが提供している業務改善プラットフォーム「kintone」が初めてデジタル化を試みる中小企業にとって導入しやすいツールだろうとアピールした。同ツールはノーコード/ローコードで容易に業務システムを構築でき、リスクが低いノンコア業務からデジタル化に着手できるとしている。「企業の規模や業種・業務を問わず使えるため、地方銀行との対話を重ねながらコンサルティングしつつシステムを開発していくことができる。地方銀行のコンサルティングと親和性が高いツールではないかと思う」(同氏)
現在、協業している金融機関は20行以上。地方銀行の地域企業支援の成果として、伊予銀行と滋賀銀行が「地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』のデジタル部門」で内閣府特命担当大臣から表彰されるなど、地方銀行による中小企業へのコンサルティング実績が順調に増えているという。
説明会では、滋賀銀行の営業統轄部 デジタル推進室所属 井上里奈氏と、伊予銀行のコンサルティング事業を行ういよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長の小野和也氏が登壇し、中小企業へのコンサルティング事例について紹介した。
井上氏によると、滋賀県の主要産業は製造や工業といった第2次産業で、県内企業の99%以上が中小企業だという。「中小企業の実態として、デジタル化を希望する中小企業(発注者)はデジタルのことが分からない、難しいという思いがあるため、システム会社(受注者)にどのように伝えたら良いか分からないと感じている。一方、システム会社側は、多岐にわたる中小企業のビジネスを深く理解するのは時間的に難しく、発注者側のビジネスがよく分からないという実態がある」と中小企業のデジタル化に対する課題を明らかにした。
このような課題を踏まえて滋賀銀行では、中小企業とシステム会社の間にビジネスとデジタルの知識を有する銀行員が入ることで、中小企業とシステム会社の交渉が円滑に進むように支援を行うという。同行では2020年10月に「デジタル推進室」を設置し、デジタルツールを活用した取引先の業務効率化やデジタル化支援を行っている。設置当初から2023年6月まで、既に130件のデジタル化を支援してきた。このうちkintoneの導入により「案件管理」「固有業務」「販売管理」「顧客管理」のデジタル化を実現したという。
滋賀銀行 デジタル推進課の活動実績
同氏はkintoneについて、「中小企業の支援ツールとしてkintoneを推奨しているわけではないが、結果的にkintoneを軸にデジタル化の一歩を踏み出す中小企業が多い」と話す。導入時の初期コストを抑えられる点や現行の業務に合わせて容易にシステムを構築できる点が、中小企業にとってデジタル化に着手しやすいツールであると判断されているという。
事例として、ビル管理を主な業務としている山川産業の「迅速な意思決定」を実現するデジタル化の支援を紹介。山川産業では、案件ごとの進行状況が各営業担当者にしか分からない状況であることや、経理担当者が日々の入金状況がつかめずに資金繰り管理に苦労したなどの課題があった。
情報が分散している状態で意思決定にも非常に時間を要していたことから、意思決定のスピードを向上するために滋賀銀行は支援を開始。同社では最初からデジタル化を希望していたわけではなく、山川産業が抱える課題解消の手段としてkintoneの導入を提案したという。これにより、社内での各種業務アプリケーションの作成や外出先での情報取得や報告、集計など作業時間を短縮。結果として意思決定のスピード向上につながったという。
次にいよぎんデジタルソリューションズの小野氏が、顧客企業に対して業務効率化をサポートする「ICTコンサルティング事業」の活動事例を紹介。2018年3月に伊予銀行で開始した同事業の支援実績は218件に上るという。
同氏は、従業員100人を超える食品メーカーのA社における労働環境のデジタル化支援を事例として取り挙げた。食品業界の受注業務はFAXや電話、メールなどの受注が主流で、A社では各種申請に際して押印や紙媒体の回覧により決済完了に平均1週間を要していたことや、承認者側もワークフローが全て紙であるため、郵送手続きなどのコストがかかっていたという。また、書類の保管場所にも苦慮しており、多額のコミュニケーションコストが発生していた。
伊予銀行はA社からペーパーレス化の相談を受けて、IT導入とツールの活用法を提案。会社貸与のスマートフォンやPCを利用して申請業務を電子化するほか、承認依頼の通知がリアルタイムに上長へ送信されて承認のスピードを迅速にした。また、決済と同時に申請社への通知と電子保存をする仕組みにすることで物理的な書類の保管場所が不要になった。
これにより、1回の決済当たりの平均所要時間が5分の1に短縮し、年間で約2万枚のペーパーレス化に成功した。A社とは3年にわたる支援が続いており、継続的な伴走支援ができているという。
TI導入後の効果
最後に渡邉氏は、サイボウズの展望について「地域課題解決のプロであり、豊富な経営支援のノウハウ、そしてお客さまとの信頼関係を持つ地方銀行とサイボウズの強みを合わせて、企業の支援を行いたいと考えている」とし、「地域金融機関や地元IT企業との連携を通して、地産地消のデジタル化、コンサルティング基盤を作り上げたいと思う。Bank(銀行)の支援により、中小企業のBase(基盤)を固め、地方のBusiness(経済活動)をより良い形に変革する『BX』を実現したい」と力強く語った。