本連載「企業セキュリティの歩き方」では、セキュリティ業界を取り巻く現状や課題、問題点をひもときながら、サイバーセキュリティを向上させていくための視点やヒントを提示する。
前回は、「失われた30年間」と呼ばれる期間の日本人の給与事情について述べた。その時期において日本の平均給与は、バブル崩壊後のデフレなどの影響もあり、ほとんど上昇しない状況だった。その一方で、高い成長を遂げた発展途上国はもちろん、欧米などの先進国の平均給与も上昇し、日本だけが世界の流れから取り残された。
しかし、そんな日本でも30年間に成長を遂げた分野が幾つかある。その代表がIT業界だろう。インターネットが急速に普及した世界は、ITがなくては成立できないような世の中になり、それは日本も同様だった。そして、ITの中でも特に成長した分野がセキュリティだと言ってよいだろう。今回は、数少ない日本の成長分野となったセキュリティが稼げる職業になったのかどうかについて述べていく。
直近10年間で倍増したセキュリティ市場
日本のセキュリティ市場は、インターネットの普及によって始まった。インターネットでつながっているからこそ、サイバー攻撃が起きるからだ。インターネットの利用拡大に伴ってサイバー攻撃が増加し、サイバー攻撃から情報資産を守るためのセキュリティの市場が拡大した。
情報セキュリティ市場規模の推移(出典:「国内情報セキュリティ市場2021年度調査報告」JNSA 調査研究部会 セキュリティ市場調査WG)
上図は、筆者が長年にわたり複数のワーキンググループ(WG)に参加している日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が調査した情報セキュリティ市場動向の推移を表したグラフだ。
これによると、情報セキュリティ市場は右肩上がりに成長し、直近10年間で2倍を超えている。このような伸びは、中国やインドなどの新興国の成長率と遜色のないレベルである。経済全体では30年間成長できなかった日本において、局所的ではあるものの、このような成長が起きたのだ。セキュリティ市場の成長は、国内でも屈指と言って良いだろう。
また、このような成長ペースが10年以上も続いていることは、セキュリティのビジネスが一過性のブームなどではないことを示している。つまり、セキュリティ業界は中長期的に見ても、まぎれもない成長分野だということが分かる。