デジタル岡目八目

デジタルインテグレーターのスパイスファクトリーがアジャイル開発にこだわる理由

田中克己

2023-09-11 07:00

 「UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)が重要になる」と語るのは、企業のDXを全方位から支援する“デジタルインテグレーター”を標ぼうするスパイスファクトリーで代表取締役CEOを務める高木広之介氏。デジタルを駆使したビジネスモデルを創り出す上で、システム利用者の「心地良さ」「使いやすさ」が大事だと説く。従来のシステムインテグレーションのように成果物を作るのではなく、利用者に利便性などの価値を提供するということだ。同社がアジャイル開発にこだわる理由はそこにある。

 同社は2016年3月の創業で、デジタルビジネスのアイデア創出やUI/UX設計、ウェブマーケティングなどのコンサルティングからシステム開発までを請け負う。伝統的なウォーターフォール型ではなく、アジャイル型の開発手法を取り入れる。発注時点で仕様をはっきりと決めるのではなく、「(開発)後期になっても要件変更を歓迎」する柔軟さが求められるからだという。

 アジャイル開発を可能にするため、同社はデザイン、開発、広告、マーケティングなどの機能を備え、デザイナーとエンジニア、開発進行を管理するディレクターなど100人超を配置する。ユーザー企業が「デザインはこの会社、開発はあの会社」と別々に発注する必要をなくし、あらゆる方向からの要求に応えられるのを特徴にしている。

 高木氏は、アジャイル開発について「ウォーターフォール開発とは価値観が全然違う」と説明する。両手法ではマインドや重視することが異なるため、何十年もウォーターフォール開発をやってきたエンジニアがアジャイル開発に参画するのは難しいという。「(これまで)正しいと思っていたことを捨てなければできない」(同氏)からだ。

 例えば、プロジェクト会議で上司や声の大きい人だけが発言し、若手は聞くだけで黙っている。これは「アジャイル開発ではやってはいけないこと」だと高木氏は語る。年齢や性別に関係なく、プロジェクトに参加する全員が専門家として互いを尊重し、一致団結して推進するのがアジャイル開発の進め方になる。

スパイスファクトリー 代表取締役CEOの高木広之介氏
スパイスファクトリー 代表取締役CEOの高木広之介氏

 システムに求められる要件も異なる。高木氏によれば、アジャイル開発で構築するシステムの多くは、基幹システムのような絶対に止まらないものではなく、売上向上などの成果を出すもので、さらに「心地よさ」などのユーザー体験も重要になる。

 こうしたデジタルシステムの構築に正解はない。つまり、作るべきものがはっきりとしないので、ワークショップを開いたりユーザーに聞いたりして、「この機能なら利用者に受け入れられるだろう」「こんな画面にしたら実装数が増えて、コストが高くなる」などとユーザー、デザイナー、開発者が議論しながら詳細を詰めていく。「この機能を作ってくれ」と言われたものを作るのではなく、「どんな機能がベストなのか」を考えるということだ。

 そうした仕様の定まらないシステムは、ウォーターフォール開発と相性が悪いと誰にでも分かるだろう。しかし、高木氏は「誤解してはいけないのは、(アジャイル開発が)仕様書を作らず、行き当たりばったりで作業を進めているわけではないこと」だと指摘する。「とりあえずあっちの方に行ってみる」といった無計画なやり方ではなく、例えば、2週間先までの予定を決めて作業を進め、問題があれば軌道修正し、また次の2週間でやるべきことを決めるといった具合だ。

 アジャイル型のシステム開発では、発注者と受注者が単なる契約関係ではなく、一体となったチームを編成する。ユーザーは発注者というよりもプロダクトオーナーとして、誰にどう役立つのか、世の中をどう良くするのか、何を大事にするのかなどの目的を明確にする。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    Pマーク改訂で何が変わり、何をすればいいのか?まずは改訂の概要と企業に求められる対応を理解しよう

  2. セキュリティ

    従来型のセキュリティでは太刀打ちできない「生成AIによるサイバー攻撃」撃退法のススメ

  3. セキュリティ

    AIサイバー攻撃の増加でフォーティネットが提言、高いセキュリティ意識を実現するトレーニングの重要性

  4. セキュリティ

    「どこから手を付ければよいかわからない」が約半数--セキュリティ運用の自動化導入に向けた実践ガイド

  5. セキュリティ

    クラウド資産を守るための最新の施策、クラウドストライクが提示するチェックリスト

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]