日立製作所は10月31日、記者会見を開いて同月27日に発表した産業制御システム(OT)領域とITのシナジーの強化を目的とする 組織再編について説明した。急増する生成AIの需要獲得を契機として、グローバルでITサービス事業を強化するのが狙いだ。
新組織体制を説明したHitachi Vantara CEOのRoger Lvin氏、日立製作所 執行役専務 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット CEOの阿部淳氏、日立製作所 代表執行役 執行役副社長 デジタルシステム&サービス統括本部長の德永俊昭氏、Hitachi Vantara CEOのSheila Rohra氏、日立ヴァンタラ 取締役社長の島田朗伸氏(右から)
この再編では、まず11月1日付で、Hitachi Vantaraのデジタルソリューション事業を分社化し、「Hitachi Digital Services」を設立する。Hitachi Vantaraは、ストレージとハイブリッドクラウドを中核とするデータインフラストラクチャーサービス企業に特化する形になる。さらに、2024年4月1日付で「日立ヴァンタラ」を新設し、日立製作所のITプロダクツ事業部門を日立ヴァンタラに統合する。
新体制では、Hitachi Vantaraと日立ヴァンタラが日立グループのデータインフラストラクチャーの中核となり、新設のHitachi Digital Servicesが産業やエネルギーなどのOT領域において、日立の持つドメインビジネスの実績とITを融合させたサービスを展開することにより、グローバルで同領域のDXを加速させていくとする。
組織再編の内容
記者会見の冒頭で、代表執行役 執行役副社長 デジタルシステム&サービス統括本部長の德永俊昭氏は、「今回の再編はデジタルシステム&サービスのみならず日立グループ全体でのグローバル成長に向けた重要な取り組みになる。デジタル市場で生成AIの台頭による急激なパラダイムシフトが起きている。生成AIにより日立のケイパビリティーを強化し、OTとITのシナジーを高める。現中計(2024中期経営計画)の折り返しだが、この再編によって計画達成を目指すだけでなく、次の中計でのさらなる成長にもつなげる重要な取り組みである」と表明した。
日立は「Lumada」を中核とするグローバル成長を推進している。德永氏は、2021年に買収したGlobalLogicによってLumadaのビジネスを推進する基盤を確立したとし、その上で今回の再編は、データおよびハイブリッドクラウドを中核とするITサービス事業をグローバルに拡大させるための新たなフェーズと位置付けた。ここで同社が事業成長を左右する見るのが急増する生成AIの需要になる。ただ、生成AIを取り巻くさまざまな懸念がある中で、生成AIの“原資”と言えるデータを、オンプレミスとクラウドのハイブリッドインフラおよび日立が得意とするインフラ運用管理の高度化のノウハウやセキュリティにより担保した上で、OT市場にソリューションを展開するという戦略になるようだ。
執行役専務 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット CEOの阿部淳氏は、Hitachi Digital ServicesとHitachi Vantara/日立ヴァンタラの2組織体制とする理由をOTとITでは求められる人材やノウハウが異なるためだとし、「それぞれの強みを生かし連携して顧客に提供していくのにより適した体制とすべく再編する」と説明した。
Hitachi Digital Servicesが海外の産業、エネルギーを含む社会インフラ分野の顧客に対応し、Hitachi Vantara/日立ヴァンタラではハイブリッドデータインフラストラクチャー企業としてのブランドをグローバルで確立させたいとする。また、この2組織とGlobalLogicが連携することで、OTとITおよびプロダクトを日立グループで一貫して顧客に提供する体制になり、将来的に海外のITサービス事業の売上高1兆円を目指していくとした。
また、阿部氏は再編の目的とする「OTとITのシナジー」についても、これまで多くの領域で実績があるとした。例えば、英国の鉄道分野で同社は、Hitachi Railを通じて高速列車向け車両を製造しており、車両の状態データを予防保全などに活用する「Hitachi Fleet Management Tool」を開発、240両以上に搭載している。これとHitachi Digital Servicesの鉄道保守ソリューションを組み合わせることにより、駅や線路、信号システムなどのインフラから車両までを包括したデータに基づく鉄道事業者の支援を可能にしているという。「数十人のSME(特定領域の専門家)のリソースがあり、OTとITをつなぎお客さまに貢献している」(阿部氏)
Hitachi Digital Servicesにおける「OT×IT」の鉄道ソリューション例