「全開発者をAI開発者に」--SAP、HANA Cloudにベクトルデータベースを導入

末岡洋子

2023-11-06 06:00

 SAPは11月2~3日、インド・バンガロールで開発者向けの年次イベント「SAP TechEd 2023」を開催した。「全ての開発者をAI開発者に」をメッセージに、「SAP HANA Cloud」でのベクトルデータベースのサポートなどAI関連機能を発表した。

SAP HANA Cloudでベクトルデータベースに対応

 2日の基調講演に登壇したエグゼクティブボードメンバー兼最高技術責任者(CTO)のJurgen Mueller氏は、まず生成AIブームに触れ、「SAPはこれを適用してビジネスAIを提供する」と述べた。同時に「開発者はAI開発者になる必要がある」とし、SAPは技術プラットフォームの「SAP Business Technology Platform」(BTP)でこれを支援していくとした。

SAP エグゼクティブボードメンバー兼最高技術責任者のJurgen Mueller氏
SAP エグゼクティブボードメンバー兼最高技術責任者のJurgen Mueller氏

 SAPは、それまでの「SAP Cloud Platform」などのPaaSの取り組みを集約し、2021年に「SAP BTP」へのリブランドを発表した。統合・拡張・アナリティクスと大きく3つの用途で利用できる。

 Mueller氏によると、SAP社内では万人単位でBTPを開発しており、2022年のTechEd以来1000以上の機能を実現、99.99%の可用性で運用しているという。BTPを利用する顧客数は、2022年の1万9000社から3000社増の2万2000社に達しているとのことだ。

 2023のTechEdでは、そのBTPに多数の機能が加わった。その中で最大の発表と言えるのが、ベクトルデータベースだ。非構造データをベクトル形式で保存できるもので、リアルタイムにデータへアクセスできるRetrieval-Augmented Generation(RAG)と並び、企業が公開データ以外のデータをAIで活用するのに重要な技術となる。

 Mueller氏は、「GPT」「Llama」「Falcon 180B」「Cloude」といった公開情報に基づく大規模言語モデル(LLM)の制限として、過去1~2年分の情報が含まれていないこと、業界用語や企業固有の情報に基づいていないことなどを指摘しながら、「LLM、企業データなどの関連するデータを組み合わせる必要がある」と述べる。それを解決するのが、「SAP HANA Cloud Vector Engine」だ。「業界をリードするSAP HANA Cloudデータベースでベクトル機能を利用できる。これにより、SAP HANA Cloudデータベースのリレーショナル、地理空間、グラフ、JSONのマルチモーダル処理機能をそのままに、社内のミッションクリティカルなデータへのアクセスを加えることができる」(Mueller氏)

デモでは、HANA Database Explorerにあるドキュメンテーションのテーブルから、ベクトルデータベースのテキストエンベッディング機能を使って要約を作成したり、SQLを使って距離空間で最も近い点を探す最近傍探索(NNS)を行ったり、地理空間エンジンを使って近くにいる作者を探すなどのことを行った
デモでは、HANA Database Explorerにあるドキュメンテーションのテーブルから、ベクトルデータベースのテキストエンベッディング機能を使って要約を作成したり、SQLを使って距離空間で最も近い点を探す最近傍探索(NNS)を行ったり、地理空間エンジンを使って近くにいる作者を探すなどのことを行った
SAP HANA Cloudでベクトルデータベースが加わる
SAP HANA Cloudでベクトルデータベースが加わる

 Vector Engineは、既にSAP社内で利用されており、2024年第1四半期に提供を開始するという。AIではまた、開発者がAIおよび生成AIを活用した拡張やアプリケーションをBTP上に構築するのを支援する「AI Foundation」も発表した。

 SAP HANA Cloud、それに2021年に発表された「SAP AI Core」「SAP AI Launchpad」などにある既存の開発ツールや新しい機能で構成され、AIサービス、生成AI管理、AIワークロード管理、ビジネスデータへのアクセスなどが可能となる。

 合わせて、2023年内にさまざまなLLMに容易にアクセスできる「生成AIハブ」をSAP AI Coreに加える予定も明かしている。プロンプトエンジニアリングなどのツールも備わる予定で、12月に一般提供を開始する計画という。

SAPのAI戦略となる「SAP Business AI」。SapphireでBusiness AIを発表時、生成AIはMicrosoftとの提携のみだったが、複数のモデルをサポートする方向性を進めている
SAPのAI戦略となる「SAP Business AI」。SapphireでBusiness AIを発表時、生成AIはMicrosoftとの提携のみだったが、複数のモデルをサポートする方向性を進めている

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    セキュリティに対する意識や対策状況の違いが浮き彫り--日米豪における情報セキュリティの実態を調査

  2. セキュリティ

    セキュアな業務環境を実現する新標準「Chrome Enterprise Premium」活用ガイド

  3. セキュリティ

    「脱VPN」で実現するゼロトラストセキュリティ!VPNの課題を解消し、安全なリモートアクセスを確立

  4. ビジネスアプリケーション

    ITR調査レポートから紐解く、間違いだらけのDX人材育成--研修だけでは成果にならないその理由は?

  5. セキュリティ

    もはや安全ではないVPN--最新動向に見る「中小企業がランサムウェア被害に遭いやすい」理由

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]