本連載ではこれまで、生成AIの社内利用における現状、法律・倫理面の問題、高度な利用方法について検討してきた。最近は「ChatGPT」と「IBM Watson」など異なるモデルを組み合わせた事例も出てきており、これらの管理には新たな課題と戦略が求められる。
最終回となる本稿では、生成AIの多様化が進む中、企業が複数のAIモデルやソリューションを効果的に統合利用・管理するための重要なポイントに焦点を当てる。
生成AIモデルの多様性と統合の現状
現代のビジネスシーンでは、ChatGPTをはじめ、さまざまな特徴を持つ生成AIモデルが活用されている。これらのモデルは当然単独で使用されるだけでなく、図1のように、他のAI技術やソリューションと組み合わせ、それぞれの強みを生かし利用する動きが見られる。
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例えば、三井化学工業と日本IBMは共同で、「Azure OpenAI Service」のGPTと「IBM Watson」を組み合わせ、製品の新規用途探索を高精度・高速化する実用検証を行った。その結果、固有の辞書作成数が約10倍に増加し、明確に「用途」と記載のあるデータにおいては、新規用途の抽出効率が3倍に向上、新規用途の発見数が2倍へ増加したという。IBM Watsonは固有の辞書構築をした上でデータ分析を行うエンタープライズAI基盤の位置付けで、GPTの生成・応答・抽出・要約といった高速検索機能などを組み合わせることで、IBM Watsonによる新規用途探索の分析能力を向上させたと発表されている。
この事例に限らずさまざまな企業が、生成AIと既存AIの組み合わせ、複数の生成AIの利用、生成AIと機械学習をベースとした特定業務のソリューションとの組み合わせなどを模索し進めようとしている。
また、オープンソースや無償で提供されるAIモデルの登場により、企業独自のAIモデルを開発し、導入するケースも増加している。既存のAIモデルも独自情報を学習させ、回答可能とするファインチューニングが可能なモデルも増えている。
モデル統合のメリットと戦略
複数の生成AIモデルを統合することには、多くのメリットがある。異なるモデルの特徴を組み合わせることで、1つのモデルでは達成できない高度なタスクの処理や、より精度の高い解析が可能となる。例えば、あるモデルが優れた言語処理能力を持つ一方で、別のモデルはデータ分析に強い場合、これらを組み合わせることで、蓄積されたマーケティング情報を基に、より自社の顧客ごとに差別化した効果的な顧客サポートシステムを構築できる。
しかし、このような統合には戦略的なアプローチが必要である。まず、どのモデルをどのように組み合わせるかという技術選定が重要だ。各モデルの強みと弱みを理解し、それらを補完し合う形で統合する必要がある。また、異なるモデル間でのデータの互換性やプロセスの統一も、スムーズな統合のための鍵となる。
今後さらに、市場に多様なAIモデルが出現し、選択肢が増加するとともに、適切なモデルの選定と統合し利用することで、企業はビジネス価値を最大化できる。