日立製作所は12月18日、建設や製造、保全などの業務の現場環境をデジタル空間に再現して産業分野で活用する「現場拡張メタバース」を発表した。現場関係者と設計や品質保証といった現場外関係者との情報共有や合意形成などを支援する。
現場拡張メタバースの適用イメージ(出典:日立製作所)
同社は、社会インフラや建設、製造など現場で熟練労働者のノウハウの伝承や少人数でも維持管理できる業務効率化が求められ、デジタルツイン(現実と仮想の空間のデータを共有して業務などに活用する技術の総称)や生成AIの活用などが期待されているとする。しかし、業務活動の多くをサイバー空間で完結したり業務データを容易に取得したりできるITとは違って、実体を扱う業務の現場では、データの収集や収集データへの情報の付与、離れた場所にいる関係者同士のリアルタイムなコミュニケーションなどに改善の余地が多くあり、それらの解決のためにメタバースの活用に注目してきたと説明する。
また、現場のデータを収集できても実体とのひも付けがなされていない、あるいは大量のデータから関係者の求めるデータへ効率的にアクセスできない、データを閲覧するために高性能なコンピューターや専用ソフトウェア、VR(仮想現実)ゴーグルなどの機材と、それらを使いこなせる人材が必要であるなどの課題もあるとしている。
現場拡張メタバースは、(1)作業着に装着するセンサーやスマートフォンアプリなどで現場の人や物に関する画像、映像、文書、音声、IoTなどの多様な種類のデータに位置情報などを付与して効率的に収集する技術、(2)収集データをAIで解析してメタバース空間において付与された情報やデータの種類に関するキーワードなどから関係者が求めるデータへ迅速にアクセスできる技術、(3)生成AIを用いて多様なデータの中から必要な情報を対話形式で抽出する技術、(4)ウェブブラウザー経由でメタバース空間や蓄積されたデータを閲覧できる技術――などから構成される。
蓄積データを活用するためのAI技術(出典:日立製作所)
同社は、日立 GE ニュークリア・エナジーや日立プラントコンストラクションと共同で7~8月に、原子力発電所のモックアップの移設工事において現場拡張メタバースのプロトタイプシステムを検証した。従来は工事現場のみで実施していた日次の夕礼を、プロトタイプシステムを使って実施した結果、遠隔地にいる関係者同士でVRゴーグルなどを使うことなく現場状況を共有したり、それに基づく合意形成を行ったりできるなど、有効性を確認したという。
これによりタイムリーに図面を発行したり、現場の実態に合わせた計画を立案したりでき、異なる部署間での認識の違いなどに起因する工事の手戻り、他作業の完了待ちを低減できるなど、業務効率向上に有効であることが認められたとしている。
この成果を踏まえて日立 GE ニュークリア・エナジーと日立プラントコンストラクションは、現場拡張メタバースを原子力発電所の各種作業に活用していく。メタバース空間に作業現場を再現し、設備の仕様や作業者、プロジェクトに関するさまざまな情報を登録することで現場状況を理解できるようになり、顧客とも蓄積データを共有することで、顧客が作業計画や状況などを容易に把握できるようになるという。また、担当者がメタバースの作業現場を見ながら熟練者の指導を受けるなど技術伝承や人材育成にも適用する。
日立製作所は、エネルギーや交通などの各種業界の顧客とも現場拡張メタバースの効果を検証し、現場作業の効率化などに貢献していくという。