アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)が金融分野向けの事業戦略について記者説明会を開いた。この機会に、同分野で筆者が最も注目している「メガバンクの勘定系システムのクラウド化」について、同社の金融事業トップに実現性を聞いてみた。果たして、回答やいかに。
AWSの金融ユーザー一覧にメガバンクの名はあるが…
AWSジャパンの鶴田規久氏
「当社は単なるインフラプロバイダーから『金融ビジネス変革の戦略パートナー』として、お客さまの事業拡大に貢献していきたい」
AWSジャパン 執行役員 金融事業統括本部 統括本部長の鶴田規久氏は、同社が先頃開いた金融事業戦略についての記者説明会でこう強調した(写真1)。
同社は2021年に、金融事業戦略として2025年に向けて「金融ビジネス変革の戦略パートナー」を目指す「Vision2025」を打ち出し、金融業界が抱える4つの課題への対策に取り組んでいる。4つの課題とは、(1)既存の枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦、(2)新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築、(3)予測できない未来に耐え得る回復力の獲得、(4)変革を実現する組織と人材の育成――である(図1)。
図1:金融業界が抱える4つの課題への対策に取り組むAWSジャパンの事業戦略(出典:AWSジャパンの会見資料)
こうした4つの課題に対し、同社では生成AIを活用した対策を用意。図2に示したのが、その内容である。4つに加えて、社内業務における生産性向上においても生成AIを活用した支援を行っている。ここで言う生成AIとは、同社が提供する「Amazon Bedrock」のことである。
図2:生成AIを活用した4つの課題への対策(出典:AWSジャパンの会見資料)
鶴田氏は今後の事業展開について図3を示しながら、「金融分野においては、既に非常に多くのお客さまにAWSのクラウドサービスをお使いいただいている。今後はそうしたお客さまのパートナーとして、4つの課題解消に取り組んでいきたい」との決意を述べた。
図3:日本の金融分野での主要なAWSユーザー(出典:AWSジャパンの会見資料)
会見のさらに詳しい内容については関連記事をご覧いただくとして、本稿では図3にも名前が挙がっているメガバンクの動きに注目したい。
メガバンクはAWSのユーザーとして名を連ねているが、現時点で勘定系システムをクラウドに移行したわけではない。勘定系システムとはすなわち銀行の基幹システムで、メガバンクのそれは世の中で最もレガシー(ホストはメインフレーム)で巨大な仕組みとも言われているものだ。
勘定系システムのクラウド化については、本連載でもこれまで、2017年1月26日掲載記事「パブリッククラウドは銀行システムに広がるか」、2018年5月31日掲載記事「メガバンクの『勘定系クラウド』が実現する日は来るか」といったように7年前から取り上げてきた。言い換えると、この頃から勘定系システムのクラウド化が話題に上るようになってきたのだ。
さらに、筆者は新聞記者だった1990年代半ば、メガバンクの前身で当時はまだ11行あった都市銀行のシステムを全行取材し、クラウドの前身ともいえるオープンシステム化に向けた動きについて連載記事を書いたことがあるので、この分野の動きにはその後も注目し続けてきた。
そうした背景もあって、この機会にメガバンクの勘定系システムのクラウド化に向けた動きについて聞いてみた。会見の質疑応答で尋ねた筆者の質問は、「メガバンクの勘定系システムがクラウドへ移行するのはいつ頃になると見ておられるか。もしくは、クラウドへの移行は難しいと見ておられるか。AWSジャパンの金融事業トップとしての見解をうかがいたい」というものだ。これに対し、鶴田氏は次のように答えた。