日本オラクルは4月18日、プライベートイベント「CloudWorld Tour Tokyo」を都内で開催した。オープニングの基調講演には、初来日となった米Oracle 最高経営責任者(CEO)のSafra Catz氏が登壇し、クラウドと人工知能(AI)の分野において今後10年間に80億ドル(1.2兆円)超を投資する計画など、日本市場に対する強いコミットメントを表明した。
基調講演の後半では、同社のクラウドサービスを自社の基幹システムやビジネスに活用している日本経済新聞社、KDDI、富士通の最新事例が紹介された。本稿では、同講演の内容をレポートする。
基幹システムでの採用が続くOracleのクラウドサービス
CloudWorld Tourは世界8都市で行われるシリーズ型のイベントで、東京は7回目の開催地となる。日本でのオープニングの基調講演では、冒頭で日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏が登場し、日本でも着実に広がりつつあるOracle Cloudの現状を紹介した。
その中で三澤氏は、「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」において、大阪ガスのデータ活用基盤やSMBC日興証券の情報システム基盤、パナソニックグループの社内データベース(DB)基盤、ベネッセコーポレーションの学校向け事業システム基盤、TISの決済ソリューション基盤として採用された直近の導入事例に言及。さらにSaaS領域でも、キヤノンのグローバル経営基盤に「Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Management(Oracle Cloud EPM)」、伊藤園の次世代経営基盤に「Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning(Oracle Cloud ERP)」、トヨタ自動車 事業開発本部 新事業推進部 マリン事業室(トヨタマリン)のサプライチェーン基盤に「Oracle Fusion Cloud Supply Chain&Manufacturing(Oracle Cloud SCM)」がそれぞれ採用された事例を紹介し、「基幹システムのクラウド移行やわれわれが得意とするERP/SaaS領域において、圧倒的な実績を積むことができている」(三澤氏)と語った。
またパートナービジネスにおいては、日本市場におけるデータ主権要件に対応するソブリンクラウドやソブリンAIの実現に向けて、OCIが提供するサービス群をパートナーやユーザー企業が運用管理できる「Oracle Alloy」を野村総合研究所(NRI)と富士通が採用したことを紹介し、同社のクラウドビジネスの勢いをアピールした。
日本オラクルの三澤智光氏
どのレベルでもユーザーが求めるサービスを提供できる
続いてOracle CEOのCatz氏が登場し、ジャパン&アジア・パシフィック担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのGarrett Ilg氏との対談の形で、日本市場向けのクラウド&AI事業戦略と期待を語った。
まずCatz氏は、日本の現状を「まるで鐘が鳴らされて、誰もが新しいテクノロジーに殺到しているかのようだ」と表現した。そして「日本の企業はコロナ禍を経て素早く動かないことに対するリスクを学び、その結果として生成AIをはじめとするテクノロジーの活用に関して今までになかったような熱意を持っている」との見解を示した上で、「日本への投資をさらに強化する」と明言した。
Oracleと同様に、クラウド/AI領域では既にMicrosoftやAmazon Web Services(AWS)といった先行する大手クラウドベンダーが日本への大型投資を表明しているが、その状況下でのOracle Cloudの強みに関して、Catz氏は「全ての技術レベルで存在感があり、規模の大小に関わらずどのレベルでもユーザーが求めるサービスを提供できること」を挙げた。
まずOCIは、同社が展開するパブリッククラウドに加え、ユーザーのデータセンター内から提供される「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer(DRCC)」やOracle Alloy、他社のパブリッククラウド経由、さらに専用リージョンという形で利用できる。アプリケーションもクラウドERPをはじめ、Human Capital Management(HCM)、SCMなど水平型のモジュールが用意されていているほか、公共、金融、小売などの業種別の垂直型でもサービス展開をしており、ユーザーは必要な機能を選択できる仕組みとなっている。また以前からの強みであるDB領域も伸びており、新たに生成AIサービスもリリースしてさまざまな種類のケイパビリティーを提供し、かつそれらをセキュアな基盤上で展開しているという。
「OCIは第2世代のクラウドとして開発されているため、他社の失敗からさまざまな教訓を学んでいる。われわれは信じられないレベルのセキュリティに加え、自動化機能や自律型DBを提供し、高速なネットワーク性能によってユーザーは低コストでより多くのワークロードを動かすことができる」(Catz氏)
欧米などで専用リージョンの構築実績
それらの機能を携えて、同社が日本での大きなターゲットの一つとして捉えているのが、政府(ガバメント)系での活用である。Catz氏は「政府は気密性が高いクリティカルなデータは国内に置きたい。そのためパブリッククラウドを使いたくないし、データを自国の外に持っていって欲しくないと考えている。その中でわれわれは、お客さまのいる場所にクラウドサービスの仕組みを持っていくことができる。既に欧州連合(EU)、英国、オーストラリア、米国などでたくさんの専用リージョンを構築している」と述べ、国ごとの隔離リージョンやデータ主権を確保できるソブリンリージョン構築の実績をアピールした。さらにそれらのサービスを日本市場で展開していくに当たって、「国内でのカスタマーサクセスを強化し、投資も行っていく」と明言した。
また注目の生成AIに関しては、「生成AI活用に当たり、OCIユーザーからスタートアップまで多くの顧客が最初にわれわれのところにやってくる」と現状を表現。Catz氏はその理由として、インフラの処理速度の速さを挙げる。さらにOCIではAIが学習した内容を最新機能を備えたDBに保存でき、活用に当たってのアプリケーションも整備されているため、「少ないコストで大きな成果を挙げることができる」のだという。
最後に、それらのクラウド/AIサービスを日本で展開していく上での不可欠な要素として、パートナーシップの重要性にも言及した。「今後もOCIのケイパビリティーと同様に、パートナーシップも拡大させる。それによってお客さまに提供できる機能を拡充していく。これによりお客さまとしてはマルチクラウドの選択肢が増え、ビジネスを成功させることができるようになるだろう」とCatz氏は語った。
OracleのSafra Catz氏(左)とGarrett Ilg氏