スーパーコンピューター「富岳」が「HPCG」「Graph500」で首位を維持--理研がコメント

大河原克行

2024-05-13 18:01

 理化学研究所(理研)のスーパーコンピューター「富岳」が、スーパーコンピューターの最新の世界ランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」および「Graph500」のカテゴリーにおいて9期連続で1位を獲得した。また、世界で最も高速なコンピューターをランキングする「TOP500」で4位、AI計算性能を評価する「HPL-MxP」でも4位となった。ドイツ・ハンブルクで開催中の高性能コンピューティング(HPC)の国際会議「ISC High Performance 2024」で現地時間5月13日に発表された。

スーパーコンピューター「富岳」(出典:理化学研究所)
スーパーコンピューター「富岳」(出典:理化学研究所)

 富岳が首位を維持したHPCGは、産業利用など実際のアプリケーションでよく使われる疎な係数行列で構成される連立一次方程式を解く計算手法「共役勾配法」を用いたベンチマーク。この結果は、富岳が産業利用などにおいて実際のアプリケーションを効率良く処理し、この分野で最も高い性能を発揮することを証明したという。

 富岳の432筐体(15万8976ノード)を用いて、16.00ペタフロップス(PFLOPS)のスコアを達成している。同2位の「Frontier」(米国)の14.05PFLOPSに対して、約1.1倍の性能差となった。

 また、同じく首位を維持したGraph500は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータ解析に関する指標になる。今回は、富岳全体の95.7%に当たる15万2064ノードを使用し、16万6029ギガテップス(GTEPS)を達成。前回2023年11月のランキング時点から性能を約20%向上させ、理研によれば、BFS(幅優先探索)の結果に影響を与えずに不要な頂点を削除する前処理を新たに導入したことで、性能が向上しているという。富岳は、2021年3月に共用を開始したが、3年以上も性能が継続して進化していることを示した格好だ。

 なお、TOP500の首位はFrontier、HPL-MxPの首位は「Aurora」(米国)が獲得している。

 今回の結果を受けて理研は、「富岳が持つ世界最高水準の総合的な性能を示したといえる。『Society 5.0』において実現しているシミュレーションによる社会的課題の解決や、AI開発、情報の流通および処理に関する技術開発を加速するためのHPCインフラの役割を、富岳が十分に発揮できることを実証した」との声明を発表した。

 また、理研 計算科学研究センター長の松岡聡氏が、今後の取り組みについてコメントした。

理化学研究所 計算科学研究センター長の松岡聡氏
理化学研究所 計算科学研究センター長の松岡聡氏

 「今われわれは、富岳に次ぐ次世代の計算基盤の研究開発に関して、数多くのプロジェクトを立ち上げ、推進している。具体的には、富岳のソフトウェアを仮想化し、その成果を世界中に広く普及させる『バーチャル富岳』を提供しているほか、従来のシミュレーション科学とともにAIによる科学の劇的進化を目指す理研『AI for Science』においては、富岳で1万ノード以上を用いて大規模国産日本語言語モデルをスクラッチから学習させた『Fugaku-LLM』や、生成AIによって科学のイノベーションを図る『TRIP-AGIS』プロジェクト、量子計算とスーパーコンピューターを密に連携させ、新たに計算可能領域を広げる『JHPCquantum』がある」

 バーチャル富岳は、富岳以外のスーパーコンピューターやクラウドサービス上に、富岳と同等のソフトウェア環境を再現するもの。富岳の設計段階から時間をかけて整備してきたさまざまなソフトウェアをパッケージ化し、あらゆるコンピューターで利用しやすい環境を実現している。バーチャル富岳で開発したアプリケーションは、富岳のほかに、さまざまなスーパーコンピューターでも同時に利用することができる。世界的な研究を支える富岳の基盤を自らの手元ですぐに再現できるため、科学技術の進展に貢献できるとしている。

 Fugaku-LLMは、10日に公開したばかりの大規模言語モデル(LLM)で、理研は東京工業大学や東北大学、富士通などと共同開発している。富岳の全リソースの約1割にあたる1万3824台の計算ノードを使用し、約4000億トークンのデータで学習。そのうち約60%が日本語コンテンツであり、日本語では高い処理性能を実現しているのが特徴だ。

 Fugaku-LLMは、約130億パラメーターのサイズながら、GPUを使わず富岳搭載の富士通製CPU「A64FX」で学習を実行している。松岡氏は、「マシンやソフトウェア、アルゴリズム、データセットを日本の中だけで作り上げ学習している。また、1万3824台の計算ノードは、ハイパースケーラーでも活用できないレベルのリソース。日本の中に技術スタックを確立できたともいえる。技術やデータの出所が分かっているというのは、AIガバナンスにおいても大切。また、富岳はLLM開発に向けて作られたものではないが、この分野に応用すると、技術的改善の余地があることが分かり、チューニングによって演算速度で6倍、通信速度で3倍という高速化を図ることができた点でも意味がある」と語った。

 そのほかにも米IBMは、神戸市の理研計算科学研究センター内に、最新の量子コンピューターを設置し、富岳と「IBM Quantum System Two」を連携させた次世代量子コンピューティングアーキテクチャーの導入を進める計画も明らかになっている。

 こうした取り組みの一方で、松岡氏は「富岳に次ぐ次世代のスーパーコンピューター技術を検討する研究開発などが、国内外のトップ機関との連携で進められている」とし、「今後これらの研究開発が日本の科学技術研究全体のまい進に貢献するのはもちろんのこと、産業界での活用や早期の社会実装に向けて、大いに貢献するものと期待している」と述べた。次期「富岳」は、2029年頃の稼働が見込まれており、富岳の5~10倍の性能になると想定されている。

 なお松岡氏は、今回の世界ランキングについても「富岳が2020年前半に試行的に稼働してから半年に一度となる主要な性能ランキングに登場するのは累計9回目になる。HPCGとGraph500で1位を獲得し、伝統的な指標のTOP500では4位、AI指標のHPL-MxPでも4位と、継続的に世界トップクラスの総合的な実力の高さを示すことができた」と述べる。

 さらに、「世界各国で官民をまたいで新しいスーパーコンピューターの開発が繰り広げられ、特に昨今の生成AIの影響により、それがヒートアップする中で(富岳が)4年の長期間にわたり世界トップクラスの性能を維持できているのは、富岳の元来のハードウェア設計に加え、理研計算科学研究センターのたゆみない富岳の高度化研究が貢献していると認識している」と話している。

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