Dropbox Japanは7月23日、ナレッジワーカー(知的労働者)のAI活用に関する実態調査を発表した。中間管理職は議事録作成に多くの時間を割き、労働生産性の向上などにAI導入を求めているという。同日開催の説明会に登壇した東京大学 大学院工学系研究科 教授の川原圭博氏は「多様な情報にアクセスできる環境を用意し、AIを積極的に活用して(業務内容に)付加価値を付ける」ことが一つの手法であると提言した。
東京大学 大学院工学系研究科 教授の川原圭博氏
同調査は2024年3月29~31日の期間で、AIに関して一定の知識を持つ20~59歳のナレッジワーカー1200人を対象に行われた。Dropbox Japan アジア太平洋・日本地域総括ソリューション本部長の岡崎隆之氏は、「管理職はメールやコミュニケーションツールなどの通知・割り込みで年間130時間程度の集中力を欠き、時間を失っている」とEconomist Impactの調査内容を引用しつつ、国内動向を改めて調査したと述べている。
調査の概要
業務におけるAI活用への期待値は高く、「AIを業務で取り入れたい」と回答した人は全体で83.4%に達した。特に部長・課長・次長の中間管理職では88.9%に達した。企業規模別に見ると、300人以上の大企業は88%、29人以下の小規模企業は75%と約10%の開きがある。
実際の利用状況だが、AIの認識率は68.6%、利用経験者は40.7%だった。業務利用の経験がある人は21.6%と著しく低い。岡崎氏はさらに「現在の業務でAIを利用しているのは5人に1人(18.2%)だった。顧客と話をしている実体験に近い」と調査結果と私見を照らし合わせた。
Dropbox Japan アジア太平洋・日本地域総括ソリューション本部長の岡崎隆之氏
ただ、AIに対する期待値は高い。業務改善を期待する内容は、労働生産性向上が83.5%(現状満足度は58.8%)、業務量の軽減は81.7%(同62.6%)、仕事に対するモチベーションは67%(同55.3%)と1~2割の差が生じた。
岡崎氏は「多くの人は成長機会を得たいと考えているものの、日常業務が忙しい。さまざまな割り込みを防げれば新技術や英語を習得する時間を確保できる」とAIの業務利用による優位性を示した。
特に業務量が多くなりがちな中間管理職は、AIに任せたい業務内容として単純作業が71%(全体は66.9%)、会議関連の業務が52%(同38.6%)だった。報告書の作成や案件の進行管理に対しても関心が高かった。
中間管理職は、AIを活用した情報管理・情報検索の改善にも期待している。情報管理に費やす時間は、中間管理職で1日4.3時間となっており、平均の同3.7時間と30分以上も差があるという。AIの導入によって削減できる時間で、中間管理職が行いたい業務として多かったのは、マネジメント業務が42%(全体は24.3%)、経営方針・戦略などの検討・立案が42%(同15.7%)、クリエイティブ業務が38.1%(同33%)だった。
それでもAIの業務導入が進まないのは、勤め先で推奨されていない/ルールが決まっていないから(28.4%)、AIに関する情報が不十分だから(22.8%)、AIを業務上どのように活用すればいいか分からないないから(21.3%)、投資する資金がないから(20%)が理由として上位に並ぶ。岡崎氏は「特に資金を理由にするのは小規模企業が顕著(31.9%)だった」と説明する、
他方でAIに対する理解不足も導入を妨げる一因だという。AIに関する情報不足を理由にした管理職は36.1%(平均32.2%)、セキュリティへの不安は19.4%(同18.6%)、資金不足は16.7%(同17.1%)と回答。
経営層の理解不足も大きい。情報管理ツールについて、経営層が他役職と比べて多かった回答は、紙に印刷したデータや手書きメモ、付箋などが43.1%(平均は30%)、USBやSD、CDなどの記録媒体が43.1%(同16%)とアナログである。チャットやメール、ファイル共有サービスなどコラボレーションツールなどを一切使用しない割合も35%と平均の20%、中間管理職の13%を大きく上回った。
岡崎氏は「まずは業務全体のDX(デジタル変革)化や経営層のDX化支援が必要」だと提言している。その成功例として戸田建設の事例を披露。同社は2019年の本社ビル移転に伴い、サーバーや紙で管理していた書類をDropboxに格納することで、建設現場からの情報参照や企業全体のDX化に実現。「現場で効果を感じられた。より大きな投資が可能になったとフィードバックをいただいている」(岡崎氏)という。Dropbox Japan自身も企業にAI利用をうながす「Dropbox Dash」を提供している。
Dropbox Dashの概要