サステナビリティーの実現に向けて社会課題の解決を目指すことを大々的に打ち上げる企業が増えてきた。だが、社会課題の解決と収益を追求するビジネスを、企業は果たして両立することができるのか。このテーマに関する最近の2つの動きから探ってみたい。
「両立」を掲げたFujitsu Uvanceの最新状況
まず1つは、富士通が注力する「Fujitsu Uvance」事業の進捗(しんちょく)について明らかにした動きだ。
写真1:富士通 行役員副社長COOの高橋美波氏
Fujitsu Uvanceは、同社が2021年に立ち上げたグローバルソリューションの事業ブランドで、2030年の社会の在るべき姿を起点に、その実現に向けて起こり得る社会課題をクロスインダストリーで解決するための取り組みを指す。具体的には、サステナブルな社会へ移行する「サステナビリティートランスフォーメーション」(SX)をミッションに掲げ、社会課題を解決する4分野のインダストリー、それを支える3分野のテクノロジー基盤、合わせて7つの分野を重点領域として注力していくといった内容だ(図1)。
図1:Fujitsu Uvanceの全体像(出典:富士通の資料)
同社が7月16日に記者やアナリストに向けて開いた説明会では、UvanceのソリューションによるユースケースやAIによる強化策を明らかにした。グローバルのUvance事業を担う同社 執行役員副社長COOの高橋美波氏はその説明会で、「Uvanceは最新の技術によって、さまざまな社会課題を解決するとともに、お客さまのビジネスを支援していく。社会課題の解決とビジネスを両立させていくことが、Uvanceの提供価値だ」と強調した(写真1、図2)。
図2:社会課題の解決とビジネスを両立させるUvance(出典:富士通の資料)
Uvanceのソリューションによるユースケースについては、製造業のサプライチェーンマネジメントをはじめとして既に実績を上げている事例が幾つか紹介された。それぞれのユースケースの説明では、ビジネスとしてどれほどの成果を上げているか、さらには社会課題の解決にどう貢献できているか、といったところをできるだけ数値で示そうという努力の跡が見られた。
その上で、高橋氏は「今後も社会課題の解決とビジネスを両立させるUvanceのソリューションによるユースケースを適時、紹介していきたい」と話した。今後も紹介していくということなので、この機会にユースケースの説明の仕方について一言もの申し上げたい。
それは、ユーザーの視点からすると、ビジネスの成果にしても社会課題の解決への貢献にしても、その効果のほどには注目するものの、同時に知りたいのはその効果を生み出すためにどれくらいの投資が必要なのか。つまり、取り組み全体としての投資対効果を明らかにしてほしいということだ。とりわけ、ビジネスの観点からすると、投資対効果が明確になっていないとビジネスとして成り立っているかどうかが分からない。
富士通からすると顧客企業のユースケースなので、当然、顧客企業が開示しないと投資対効果は明らかにできないだろうが、ソリューションとして「社会課題の解決とビジネスの両立」を掲げるのならば、全体としての投資対効果を何らかの形で示してこそ、Uvanceの真の価値を訴求できるのではないか。効果だけを示すのは、これまで数多あるユースケースと同様、単なるPR事例の紹介に過ぎないと筆者は考える。
ちなみに、説明会の質疑応答で高橋氏に「社会課題の解決とビジネスは本当に両立できるとお考えか」と単刀直入に聞いたところ、同氏は「両立に時間がかかる領域があることは想定している。だが、多くの分野で手応えを感じるようになってきており、最終的にはどの領域も両立できると考えている」と自信を見せた。今後のUvanceならではの価値の示し方に注目していきたい。