デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業の参考になればと、DX支援ベンダーなどから、DXによって業務の効率化などさまざまな効果を上げているユーザー事例が数多く紹介されている。だが、それらはビジネスとして成り立っているのか。ユーザー事例として「成功」を証明するためには「投資対効果」を明らかにすべきではないか。
投資対効果の割合が事例としての成功の証し
今回の「一言もの申す」では、筆者がこれまでDXに関して支援ベンダーやユーザー企業を取材してきた中で、非常に気になっている点について述べたい。
それは、ユーザー事例の紹介の在り方だ。ユーザー事例は、DXを支援するベンダーや関連メディアから発信されており、DXに取り組んだ理由や背景、どのように取り組んでいるか、そしてどんな効果が出ているか、というストーリーで構成されている。特定のベンダーが発信している事例には、それに加えてそのベンダーの製品・サービスを選んだ理由や活用法が一番のポイントとして記されている。
もちろん、そうした内容でも参考になるところは少なくないだろう。だが、ユーザーが取り組み内容と共にまずもって知りたいのは、それぞれの取り組みにどれくらいの投資が必要なのか、その上で効果と照らし合わせてビジネスとして成り立っているのか、すなわち投資対効果が出ているのかどうかだ。その意味では、DXのユーザー事例として投資対効果が出てこそ「成功」と言えるのではないか。
ただ、DXにおけるそれぞれの取り組みで投資対効果を明らかにするのは、実際には難しいとの声も聞く。投資額はベンダーが言えるものではなく、ユーザーが明らかにしない限り分からないが、そんな台所事情を明かすユーザーはまずいない。一方、効果についてはさまざまな表現の仕方があるが、マネジメントの観点からすると、ほぼ全ての効果が金額に換算できる。
そこで提案したいのは、投資額そのものは明らかにしなくとも、投資対効果の割合は出そうと思えば出せるはずだ。投資額を「1」として効果を換算した金額との割合がどれくらいになるか。つまり、1を超えればビジネスとして成り立っていると見ることができるわけだ。さらに時間と共に効果が上がっていけば、そのDXの取り組みがビジネスの観点からどれくらい有効かという見方もできる。
投資対効果の割合こそが、事例としての成功の証しであり、企業の規模や業種、地域性に関わらず評価できる指標ではないか。