本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、IIJ 代表取締役 会長執行役員 Co-CEOの鈴木幸一氏と、Tenable Network Security Japanカントリーマネージャーの貴島直也氏の「明言」を紹介する。
「生成AIで新しいことができるようになるのはもう少し先だろう」
(IIJ 代表取締役 会長執行役員 Co-CEOの鈴木幸一氏)
IIJ 代表取締役 会長執行役員 Co-CEOの鈴木幸一氏
インターネットイニシアティブ(IIJ)は先頃、2024年度(2025年3月期)第1四半期(2024年4~6月)の決算を発表した。鈴木氏の冒頭の発言は、その発表会見の質疑応答で、2023年来注目が集まっている生成AIについて聞いた筆者の質問に答えたものである。
IIJの決算会見で生成AIを話題に上げたのは、IT業界のご意見番である鈴木氏がどう見ているのか、聞いてみたかったからだ。さらに、業績好調なことから新たな事業として生成AI関連サービスを手掛けてみてはどうかとも聞いてみた。
まずは業績好調ぶりについてポイントを紹介しておくと、IIJの2024年度第1四半期の連結業績は、売上高が前年度同期比17.3%増と高水準の伸びを記録した。中でも注目されるのは、システムインテグレーション(SI)事業の好調ぶりだ。SIの売上高における構築は同74.1%増、運用は同14.8%増、受注における構築は同7.4%、運用は同26.7%増、さらに第1四半期末の受注残高における構築が同27.3%増、運用が同26.4%増と好調に推移した。このSI事業の好調ぶりが、筆者の質問にもつながった。
2024年度第1四半期決算の概要(出典:IIJの決算発表資料)
会見の質疑応答で、筆者は「生成AIについてはIIJの社内でも使用しておられるだろうが、業績をさらに伸ばしていくためにも新たな事業として生成AI関連サービスを手掛けてみてはどうか。Amazon Web Services(AWS)が提供する『Amazon Bedrock』のようなサービスを打ち出せば、SI事業にもさらなる好影響を与えるのではないか」と聞いた。Amazon Bedrockを引き合いに出したのは、インフラ事業を主体とするIIJにとっても同様のマネージド型サービスの方が手掛けやすいと考えたからだ。筆者の質問に対し、鈴木氏は次のように答えた。
「生成AIについては、今後サービスとして事業化することも検討していくが、まずは社内で利用できるところがあればどんどん利用しようということで進めている」
Amazon Bedrockについては、筆者が質問している際にうなずいておられたので何かコメントがあるかと期待したが、結局、他社のサービスに言及することはなかった。ただ、鈴木氏はこの後に、生成AIに対する見解を次のように示した。
「私自身は生成AIについて冷ややかに見ているところもある。普通の人間ができることは生成AIでもっとスピーディーに代替できるようになるかもしれないが、現時点でその処理ロジックはこれまでと変わらず、そこから何か新しいアイデアが出てくるわけではない。もちろん、普通の人間ができることをスピーディーに代替できるだけでもインパクトは大きいが、現時点でできることを冷静に見極める必要がある。私は、生成AIで新しいことができるようになるのはもう少し先だと見ている。IIJとしてもそうした技術開発に取り組み、いち早く事業化につなげていけるように努力したい」
冒頭の発言はこのコメントから抜粋したものである。「冷ややかに」との見方が、鈴木氏らしいと感じた。もっともご当人は「僕の性格から来る表現なので…」とも。筆者はそれを聞きたかったので、ありがたかった。