協業を発表したパナソニック ホールディングス テクノロジー本部デジタル・AI技術センター所長の九津見洋氏は、「AIの適用で幅広い事業領域のそれぞれの現場において固有のデータ構築を進めており、この作業量の多さがAI開発のボトルネックになっている。特にアノテーションが課題で、AI開発プロセスで多くの手間と時間を要し、拡張性を阻害する要因。HIPIEとData-centric AIプラットフォームの連携で、ボトルネックのアノテーションのプロセスを劇的に改善でき、AI開発を加速できる」とした。
例えば、多くの人物が写っている画像から人間の輪郭を手作業で検出してアノテーションを行うと、1人の輪郭を捉えるのに2~3分ほどかかる。10人分では30分程度の作業時間になり、教師データとして活用するには数千枚以上を対象にした作業が必要になることから、全体で約2カ月間を要してしまう。今回の協業で、こうしたアノテーション作業を大きく削減でき、AI開発期間を短縮できる。
AIアノテーションの課題イメージ
HIPIEは、パナソニックが米カリフォルニア大学バークレー校と共同開発し、LLMの事前知識を生かして、任意のテキスト入力に基づき、セグメンテーションタスクを実行できる画像認識のマルチモーダル基盤モデル。プロンプトで指定した未学習の物体をゼロショットで認識できる。検出対象の詳細な条件を指定して、検出を行うデータセットに対して、世界最高レベルの性能を達成するなど、優れたセグメンテーション機能が特徴になる。
FastLabelは、2020年1月に創業したスタートアップ企業。Data-centric AIプラットフォームは、直感的に利用できるUIを採用し、エンジニアだけでなく非エンジニアでも簡単に利用できるのが特徴だ。データ管理やアノテーション、モデル学習、評価までの一貫したAI開発を可能にできるという。同社は、国内数百社のアノテーション代行事業を展開しており、機能の改善、新技術の取り込みを通じて、アノテーション自動化の仕組み作りを進めているという。
協業したパナソニック ホールディングス テクノロジー本部デジタル・AI技術センター所長の九津見洋氏(左)とFastLabel 代表取締役 CEOの鈴木健史氏
FastLabel 代表取締役 CEO(最高経営責任者)の鈴木健史氏は、「AIは『新しい電気』と言われ、今後AIへの依存度が増すとAIの停止が社会活動の停止に直結する時代が来る。電力インフラのようにAIを開発・供給することが求められる。そうした時代に向け、社会基盤としてのAIインフラを構築する企業を目指している」と述べた。
さらに鈴木氏は、「AIではアルゴリズムのコモディティー化が進展する一方で、従来モデルを中心としたAI開発からデータ中心のAI開発にシフトしつつある。しかし、AI開発工数の90%が教師データの作成に費やされ、教師データに対するイノベーションも生まれておらず、効率化が進んでいない。当社はそれを改善するためのプラットフォームとプロフェッショナルサービスを提供し、顧客からのフィードバックを基に改善を進めて、AI開発の効率化を実現している」とも語った。
パナソニック ホールディングスの九津見氏は、グループのAI戦略の基本姿勢にも言及。「全ての事業会社がビジネスでAIを活用できるよう技術やツール、ノウハウを提供している。家電や家、エンターテインメント、B2B(対法人ビジネス)、デバイス、車載機器など幅広い事業分野があり、特定のAI技術をそれぞれの事業でいかに早く使えるようにするかが重要になる。現場ごとのデータ構築やチューニングが必要になり、スケールが難しいという課題とともに、リアル空間に適用するため高い品質や信頼性も求められる」と話す。
さらに、「より多くのお客さまに寄り添い、AIをお届けする技術を開発すべく、データから実装まで一貫したAI開発プロセスを高度化し、責任あるAI活用を加速している。あらゆるお客さまに素早くお届けするScalable AIとあらゆるお客さまの信頼に応えるResponsible AIを掲げている」と述べた。