松岡功の「今週の明言」

デル社長が発した「AIビジネス拡大へのしたたかなメッセージ」とは

松岡功

2024-10-04 10:30

 本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。

 今回は、デル・テクノロジーズ 代表取締役社長の大塚俊彦氏と、NECセキュリティ 取締役執行役員の後藤淳氏の「明言」を紹介する。

「全ての企業に『Dell AI Factory』を導入していただきたい」
(デル・テクノロジーズ 代表取締役社長の大塚俊彦氏)

デル・テクノロジーズ 代表取締役社長の大塚俊彦氏
デル・テクノロジーズ 代表取締役社長の大塚俊彦氏

 米Dell Technologies(以下、Dell)の日本法人デル・テクノロジーズは先頃、ユーザー企業がAIソリューションの実践や検証を行える施設として東京・大手町の本社内に「Solution Center AI Innovation Lab」(以下、AI Innovation Lab)を開設したと発表した。大塚氏の冒頭の発言はその発表会見で、AI Innovation Labの根本であるDellのAIビジネスのコンセプト「Dell AI Factory」について述べたものである。

 AI Innovation Labの開設を中心とした会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは大塚氏の冒頭の発言に注目したい。

 Dell AI Factoryは、Dellが2024年5月に推進し始めたAIビジネス構想で、図1に示すように5つの要素からなる。大塚氏が説明した順番通りに紹介していこう。

(図1)Dell AI Factory構想の概要(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)
(図1)Dell AI Factory構想の概要(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)

 まず、右側の「ユースケース」では、Dellは世界中のユースケースを集積しており、ユースケースごとに最適化された検証済みソリューションとカスタマイズされたサービスを提供している。

 左側の「データ」については、データの大半がオンプレミスとエッジに所在していることから、インフラベンダーであるDellの影響力が大きくなる。また、同社では「生成AIにデータを持ち込むのではなく、データの発生場所に生成AIを寄せていく」ことを基本的な考え方としている。

 中央上の「サービス」は、生成AIの計画から実装、運用まで、エンドツーエンドで支援する経験豊富なコンサルティング、プロフェッショナルサービス、マネージドサービスを指す。

 中央真ん中の「オープン・エコシステム」は、最も幅広いAIエコシステムを形成していることを表している。

 そして、中央下の「インフラストラクチャ」は、Dellとしてクライアントからサーバー、ストレージ、ネットワークまで幅広いAI搭載製品ポートフォリオを提供している「主戦場」である。

 大塚氏はこう説明した上で、冒頭のように「全ての企業に…」と述べた。

 この構想に基づいた具現化の1つが、AI Innovation Labである。同社ではこの施設を「ユーザー企業がAIやエッジ、マルチクラウド、データマネジメントにおけるイノベーションを促進するための共創と学びの場」と位置付けている(図2)。

(図2)AI Innovation Labの概要(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)
(図2)AI Innovation Labの概要(出典:デル・テクノロジーズの会見資料)

 同社にとって、AIをテコに新規顧客をどのように獲得していくのか。大塚氏の話を聞いていて、ふとそんな疑問が頭に浮かんだので、会見の質疑応答で尋ねてみた。すると、同氏は次のように答えた。

 「AIをテコに、という意味ではまさしくDell AI Factory、そしてAI Innovation Labを原動力および差別化戦略として今後も磨き上げていくつもりだ。また、当社はインフラベンダーとして、パートナー企業との協業によってその上で実現したさまざまなソリューションをお客さまに実践的な形で活用していただけるように注力している。そうしたアプローチを今後もさらに強化していきたい」

 このコメントは、Dell AI Factoryの特徴も言い表している。つまり、Dell AI FactoryはインフラベンダーとしてAIを活用する全ての領域およびソリューションに関わっていくことを示した構想とも捉えられる。このことは同社にとって非常に重要だ。なぜならば、Dellの最大の強みは、幅広い製品・サービスにおける「顧客規模」にあるからだ。

 大塚氏の「全ての企業に…」との冒頭の発言は、その強みを踏まえた、したたかなメッセージだと筆者は感じた。

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