山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国2大ネット企業、アリババとテンセントの戦いを振り返る

山谷剛史

2024-10-15 07:00

 阿里巴巴(アリババ)と騰訊(テンセント)は中国の2大インターネット企業だ。アリババは主にECに強みを持ち、テンセントは「WeChat」や「QQ」などのSNS、ゲーム、コンテンツに強みがある。両社の競争や取り組みは、中国のインターネット業界全体に大きな影響を与えた。興味深いことに、(過去の)アリババとテンセントの最高経営責任者(CEO)はどちらも「馬」という名前だった。アリババの頭文字「阿」と、テンセントの初期の代表的サービス「QQ」から、2社の競争は「阿Q対戦」とも呼ばれている。

 両社は主要な事業の他にも、多くのサービスを展開している。その結果、EC、SNS、クラウド、ブラウザー、地図、物流など多くの分野で競争が起きている。特に、EC、SNS、クラウドにおける競争が目立つ。

 ECはアリババの柱であり、同社の存在の基盤である。当然、ライバルの存在を最も望んでいない分野でもある。アリババがECで成功したのを見て、テンセントもECに進出し始めた。まず「淘宝」(タオバオ)をまねて「QQモール」というサービスをリリースし、それを「拍拍」(パイパイ)に統合し、さらに「易迅」(Yixun)を買収したが、その結果は芳しくなく、アリババの牙城を崩すことはできなかった。

 当初、アリババのライバルはテンセントではなく、家電製品に強く中国の618商戦(毎年6月18日に開催する大型セール)を仕掛けた「京東」(ジンドン、JD)だった。ジンドンは当時、競争できるだけの十分な力を持っていなかったが、テンセントの介入で状況が変わった。2014年にテンセントはジンドンに2億1500万ドルを投資し、同社株式の15%を取得した。ジンドンの株式公開後にはさらに出資比率を高めた。

 2015年のダブルイレブン(毎年11月11日に開催される独身の日の大型セール)の前夜には、ジンドンとテンセントが北京で戦略的協力に関する記者会見を開き、「京騰計画」を発足させた。テンセントとジンドンは共同でブランド販売者に一連のブランドマーケティングと顧客体験のソリューションを提供し、多くのネットユーザーをテンセント/ジンドン側に引き寄せようとした。2019年にはテンセントはジンドンの株式の17.8%を保有し、同社の筆頭株主となった。

 ジンドンに続いて、日本では「Temu」で知られる拼多多(ピンドゥオドゥオ)が、中国で天猫と淘宝を擁するアリババの強力なライバルになった。テンセントはピンドゥオドゥオにも出資し、創設者に次ぐ第2の株主となっている。ピンドゥオドゥオは、淘宝が成長する過程で切り捨てた、安価で何かしら問題のある商品も含め、低価格商品を販売するプラットフォームとして中国国内で成長した。さらに、海外市場でもTemuがさまざまな問題を抱えながらも拡大している。

 その後、ライブコマース時代に入り、字節跳動(バイトダンス)の「TikTok」と抖音(ドウイン)のECプラットフォームが存在感を高めているが、テンセントはこれらには投資していない。

 テンセントが強いのはSNSだ。同社のWeChatが成長するにつれ、ミニプログラムを含む多くの機能を追加した。WeChatは強力なソーシャル属性を武器に、ユーザーリーチやコンテンツマーケティング、各種共有が簡単にできる。WeChatのミニプログラムで商品を販売することも可能だ。アリババのライバルとなるほど目立ってはいないが、ECのニッチな市場を開拓し、アリババの中核ジャンルに対して存在感を示すことに成功した。

 アリババもテンセントのSNS領域を狙おうと、さまざまな手を試みた。2012年には「陌陌」(Momo)という位置情報ベースのSNSに4000万ドルを投資した。Momoは、ユーザーがビデオ、テキスト、音声、写真をアップでき、近くの人々を発見してつながることができるサービスだ。Momoのユーザー数は2013年には5000万人、2014年には1億人を超え、同年末にはナスダックに上場し、アリババはMomoで多額の利益を上げた。

 アリババは2015年にビジネス向けのSNS「釘釘」(DingTalk)をリリースした。Momoが消費者向けであるのに対し、DingTalkはビジネス向けの製品で、ビデオ通話、グループ通話、ビジネスグループ、ログ、アドレス帳などの機能があり、企業のコミュニケーションとコラボレーションの効率を向上させる。2019年にはユーザー数が2億人を突破し、さらに新型コロナウイルス感染症が大流行したゼロコロナ体制の際には、在宅勤務やオンライン授業に対応するため、学校や企業での利用が広がった。その結果、ユーザー数は爆発的に増加し、4億人にまで達した。

 ECでテンセントがアリババの牙城を切り崩したように、アリババもテンセントの牙城を切り崩した形だ。

 テンセントはSNSのほかにゲームやコンテンツにも力を入れたが、アリババはECのほかにクラウドにも力を入れた。「阿里云」(アリババクラウド)を立ち上げたのは2009年で、クラウドがまだあまり一般に広く知られていないころだった。

テンセントは4年後の2013年に「騰訊云」(テンセントクラウド)の提供を始め、アリババとテンセントがクラウドコンピューティングを巡って競争するようになった。アリババクラウドは早期にスタートし、多額の投資を行い、多くのテクノロジーを蓄積したことで、中国のクラウド市場でリーダーの座をキープしている。ただ当初、アリババクラウドは中小企業をメインターゲットとし、一方のテンセントクラウドは異業種間を結ぶリンカーとして位置付けられていた。

 アリババクラウドとテンセントクラウドは、世界的な認証を受けて海外に進出し、中国だけでなく海外にも多数のデータセンターを立ち上げた。また、アリババは馬雲(ジャック・マー)氏の体制のころ、スマートシティーや工業用農業用クラウドソリューションを「都市大脳」「工業大脳」などと名付けて大々的に発表し、注目を浴びた

 クラウドが広く知られるようになると、価格競争が激化し、アリババクラウドの市場シェアは徐々に低下した。一方で、テンセントと華為(ファーウェイ)がシェアを伸ばしている。

 このようにアリババとテンセントはさまざまなジャンルで競争してきた。とはいえ、2024年のダブルイレブンセールでは、タオバオの商品をWeChatで支払えるようにした。今後、両社の協力関係が少しずつ進んでいくのではないか。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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