分散クラウドの多様化につながっていく可能性も
当時の国内データセンター開設の発表会見に伴って来日したMicrosoftのAzure事業責任者に戦略転換の経緯について聞いてみると、次のような答えが返ってきた。
「当初、運営委託の協業を模索したのは、パートナー企業で主体的に事業を進めたいという要望が強かったからだ。しかし、その後Azureそのものの事業規模を拡大して経済性を追求していくためには、当社が主体になってデータセンターを拡充し、パートナー企業には、その基盤を利用して連携あるいは付加価値サービスを広げていってもらう方が市場のニーズに合致していると判断した。富士通との関係もそうした流れの中で進化させた」
この事業責任者は、戦略の“転換”ではなく“進化”だと言っていたが、その見解がどうというより、この動きで肝心なのは、なぜMicrosoftは自前のデータセンターでの運営にこだわったのか、だ。上記のコメントにあるように「Azureそのものの事業規模を拡大して経済性を追求していく」という目的もあるだろう。最新技術を迅速に適用できるなどのメリットも、もちろんある。
ただ、ビジネスの観点から見て大きいのは、パブリッククラウドならではの特徴で、顧客のデータを自前のデータセンターで管理することで顧客と直接コンタクトを持てるようになる点だ。すなわち“顧客の囲い込み”をガッチリできるわけである。
以上、10年余り前に追いかけていたMicrosoftの協業形態の話については、2014年3月4日掲載の本連載記事「知られざる『Windows Azure』の戦略転換」の内容から改めてまとめてみた。
さらに、この記事には書かなかったMicrosoftの当時の幹部の発言を今も鮮明に覚えている。それは、「クラウドサービスは“勝者総取り”のビジネスだ」というものだ。とはいえ、このビジネスはパートナーエコシステムを構築しないと成り立たないというのが、今では必然の考え方だ。が、データをベースとした顧客の囲い込みというのもクラウドサービスの本質だ。ハイパースケーラーが今や社会の動きをも左右する巨大な存在になっているのが、その証左である。
では、Oracle Alloyは上記で紹介したMicrosoftの協業形態と同じかというと、流通の仕組みとしては似通っているが、Oracle Alloyはソブリンクラウドを対象としているところが大きな違いだ。これは、クラウドサービス利用の進展と共に、ユーザーニーズが多様化してきていることが背景にある。とりわけ、ソブリンクラウドについては長年にわたってデータベース分野をリードしてきたOracleに対して期待が高まるのは必然だろう。その意味では、Oracle Alloyは時代の要請に応じたチャレンジといえる。
また、Oracle Alloyの動きを機に、クラウドサービス流通の仕組みが多様化していくかについては、これが分散クラウドの多様化につながっていく可能性は十分にある。ただ、それがどんな仕組みになっていくのかは予想がつかない。いずれにしても、Oracle Alloyの動きがこれからのクラウドの在りようを改めて考えるきっかけになるのではないか。引き続き、注目していきたい。