アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は11月13日、ソフトウェア企業支援の新しいプログラム「AWS SaaS支援プログラム」を発表した。同日に行われた説明会では、AWSジャパン 常務執行役員 デジタルサービス事業統括本部長 佐藤有紀子氏が同プログラムを説明。また、SaaS事業の展開に当たりAWSジャパンの支援を受けた、Works Human Intelligence(WHI)、ソラコム、デジタルキューブの3社が登壇し、事例を紹介した。
左からAWSジャパン 常務執行役員 デジタルサービス事業統括本部長 佐藤有紀子氏、Works Human Intelligence 最高戦略責任者(CSMO)兼 Partner Div.統括 高橋総一郎氏、ソラコム CTO 兼 CEO of Americasの安川健太氏、デジタルキューブ 代表取締役社長 小賀浩通氏
富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2024年版」によると、日本のソフトウェア市場において「SaaS/PaaS市場」は2024年で2兆円を超える規模になっており、市場全体の72%を占めると予測されている。佐藤氏はSaaSを取り巻く日本の環境について「企業の規模によらず多くのユーザーがDXのためにSaaSの活用を加速していきたいと考えている。こうしたニーズの高まりによって、従来からソフトウェアを提供してきた企業だけでなく、多くの新しい企業がSaaS事業に参入しようとしている」と説明する。
ソフトウェア企業では、パッケージビジネスを行う企業がSaaSビジネスのモデル変革に取り組んでおり、エンタープライズ企業では自社のノウハウを生かした新規事業の立ち上げに取り組んでいる。AWSジャパンは、顧客のビジネスを成長させるための課題解決を支援するために、独立系ソフトウェア企業やSaaS事業に参入するエンタープライズ企業を対象にAWS SaaS支援プログラムを提供する。なお、同プログラムは原則無償での提供で、現在は企業の上限や期間は定めていないという。
同プログラムは、(1)SaaSをはじめる「Migrate to AWS」、(2)競争力のあるSaaSをつくる「Innovate with AWS」、(3)SaaSビジネスを拡大する「Scale with AWS」――の3つのフェーズを用意し、ビジネス/技術面の両方で支援する。
AWS SaaS 支援プログラムの概要
(1)では、パッケージソフトウェアを提供する企業に対し、SaaSでのビジネスに移行するための計画策定支援を実施する。具体的には、AWSジャパンがこれまで支援してきたSaaS移行のノウハウをまとめた「SaaS Journey Framework」を活用してSaaS移行計画の立案を支援する。ほかにも、テクノロジーのチェックや商品ラインアップのヒアリングも行う。
(2)では、既にクラウドで構築している自社のSaaS製品の競争力を強化する。同社は、SaaS企業のシステムのクラウドネイティブ化やモダナイゼーションを支援する。Amazon Web Services(AWS)上で稼働しているシステムをクラウドネイティブ化することで、スタッフの生産性が80%向上、またサーバーレスなアーキテクチャーの採用でインフラコストを39%削減できるなどのメリットがあるという。
(3)では、SaaS販売のプラットフォーム「AWS Marketplace」での販売や「AWS Global Passport」での海外展開など、ビジネスの拡大を支援する。AWS Marketplaceはこれまで販売価格がドル建てだったが個別の見積もりを行うプライベートオファリングを利用することで日本円での取引が可能になった。これにより、日本企業のAWS Marketplaceの利用が進んでいるという。
AWS Global Passportでは、海外進出の際にかかるコンサルティング費用をAWSが負担する。さらに、初めて利用するAWSの海外リージョンの利用料に当たってクレジットを発行する。同プログラムのプレローンチには9社が参加しているという。
AWS Global Passportの支援内容
統合人事システム「COMPANY」を提供するWHIは、1996年にオンプレミスでの提供を開始し、2019年にクラウドサービス「COMPANY Ver.8」シリーズの提供を開始した。新規販売におけるクラウド比率は2019年で48%、2024年には90%以上にまで上る。また、オンプレミスからクラウドに移行した顧客は2021年と比較すると2024年で約15倍となっており、最高戦略責任者(CSMO)兼 Partner Div.統括 高橋総一郎氏は「毎年加速度的にクラウド化を選択する顧客が増えてきている」と現状を述べる。2027年には全顧客のCOMPANYをSaaSにシフトする計画も予定している。
同社はSaaSの提供に当たり、国際標準機構(ISO)や政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)の認証のほかに、AWSの「ファンデーショナルテクニカルレビュー」(FTR)を取得。FTRは、顧客が持つ製品がAWSのベストプラクティスに基づいて実装・運用されているかを要件に従って検証する。加えて、WHIのオンプレミス環境からセキュリティ・可用性を考慮したアーキテクチャーの構築をAWSと共に実施できる。
他方、金融機関や政府などの高度なセキュリティが必要となる顧客に対しては、VPCやオンプレミスからAWSのサービスに接続できる「PrivateLink」を利用したオプションの提案を行った。
サービスの開発・サポート体制においてもオンプレミスからクラウドに適した体制が必要になり、教育プログラムを活用した開発者全体に対するクラウド教育の強化やデータ分析専門部の立ち上げを実施したという。