Specteeは説明会を開催し、製造業におけるサプライチェーンの強靱(きょうじん)化に関する調査結果を紹介した。
調査結果を解説した取締役 最高執行責任者(COO) 海外事業責任者の根来諭氏は、2011年の東日本大震災の際に福島県郡山市の製造拠点でサプライチェーンの混乱・途絶に直面したという。
Spectee 取締役 COO 海外事業責任者の根来諭氏
その経験を踏まえて同氏は、「トヨタ生産方式」で有名なジャストインタイムを「無駄なものを作らず、必要なモノを必要なだけ届けるために研ぎ澄まされて到達した一つの到達点」と評しつつ、「いわゆるサプライチェーンは効率化およびコストダウンの方向性で大きく発展してきたものだが、今は危機の時代で、大震災が起き、自然災害が多発し、パンデミックや地政学的リスクの高まりもある中、これまで通り効率化一辺倒/コストダウン一辺倒でいいのかという、時代の曲がり角に来ている。これから重要になるのは、サプライチェーンの強靱化というコンセプトである」と語った。
根来氏は、東日本大震災での経験を通して分かったこととして、従来の製造業におけるサプライチェーンのイメージは「系列とカンバン方式による効率化の追求」の結果、完成品メーカーを頂点とするピラミッド構造だと考えられていたが、実際にはコストダウンを追求する過程で体力のないサプライヤーがふるい落とされる形で系列の解体が進んでおり、少数のサプライヤーがさまざまな完成品メーカーと取引関係を結ぶダイヤモンド構造になっていることを挙げた。取引関係が複雑化している分、災害発生時などの状況把握がこれまで以上に困難になっているという(図1)。
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調査結果では、「サプライヤー情報の管理について、普段どのようなツールを使用しているか」という問いに対し、「Excel、スプレッドシートなどの表計算ソフト」が48.8%で最多、次いで「自社開発のシステムやソフトウェア」が36.2%、「ERP(統合基幹業務)/調達購買システムなどのパッケージソフトウェア」が28.2%で、「特にツールを使用していない」も20.8%に上った。
次に、「上記のツールを活用する中での課題は何か(複数回答可)」では、「手作業が多く、非効率になりがち」が34.6%で最多、次いで「データやプロセスの可視化がしにくい」(27.0%)、「情報を更新できず、常に最新の状態に保つことが難しい」(26.8%)、「複数人での情報共有が難しい」(24.0%)などが続く。
Spectee 代表取締役 CEOの村上健治郎氏
続いて、代表取締役 最高経営責任者(CEO)の村上健治郎氏が、同社のサプライチェーンリスク管理サービス「Spectee SCR(サプライチェーンレジリエンス)」を紹介した。同社は以前から、世界中で発生する危機・事象(災害や事件、事故など)をSNSや気象データ、定点観測カメラなどから収集し、AIで解析して顧客に伝えるサービス「Spectee Pro」を展開しており、行政などでも活用されている。
「Spectee Proはどこで何が起きたかを一覧表示することに長けているが、サプライチェーンのリスク管理に特化する形で新たに提供したのがSpectee SCRだ」とした。コアとなっているのはSpectee Proで、その上にサプライチェーンリスク管理に特化した専用インターフェースを被せた形でSpectee SCRを実現しているイメージだ。
Spectee SCRではあらかじめサプライチェーン情報を登録しておくことで、例えばサプライヤーの製造拠点の近隣で事故や災害が発生した場合などに迅速に可視化する。Spectee SCRは約1年前に提供開始されたものだが、今回グローバルの状況を一覧表示する機能や、災害発生時などにあらかじめ設定された閾値(いきち)を超える規模と判断した場合には各サプライヤーの担当者にメールを自動送信して状況を問い合わせる機能などを追加したという(図2)。
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近年サプライチェーンのトラブルと言うと真っ先にランサムウェアなどのサイバー攻撃などが思い浮かぶが、自然災害や事故のリスクが軽減されているわけではなく、むしろ気候変動の影響や地政学的リスクの高まりなどもあり、甚大なトラブルに直面する可能性が憂慮される状況だ。
東日本大震災のような自然災害の発生自体を防ぐことはできないものの、発生後の対応については過去の経験を踏まえて対策を講じることが可能だ。東日本大震災後に経済産業省が実施した「東日本大震災後の産業実態緊急調査」(2011年4月)では、「自社のサプライチェーンの景況確認にかかった日数」として、加工業種の場合「3週間から4週間」が26%、調査時点で「現時点では確認できていない」と回答した企業も11%に上ったことが報告されているという(図3)。こうした状況を繰り返さないためにも、人手に頼る非効率な手法から、IT/デジタルを活用した優れた手法を導入することを真剣に検討すべきだろう。
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