日本銀行(以下、日銀)が先頃、「金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理」と題した調査レポートを発表した。日銀は言わば金融業界の取りまとめ役のような存在だ。どの業界でもこれから生成AIをどのように活用していくかについては大きなテーマとなっている。業界特有の活用法を業界ごとに磨き上げていくためにも、日銀のような業界の取りまとめ役がこのように動いて得た情報やその分析をそれぞれの業界で共有するのは有意義なことではないか。今回は日銀の調査結果のエッセンスを紹介しながら、そうした提案をしたい。
日銀はなぜ金融機関の生成AI調査を実施したのか
日銀は今回の調査における問題意識について、次のように述べている。
「生成AIに関する技術は目覚ましい勢いで進歩しており、社会全体に急速に浸透しつつある。そうした中、金融機関においても生成AIに対する関心が高まっており、文書作成の自動化やシステム開発などで、実際に生成AIを活用する事例が出てきている。他方で、生成AIがもたらす特有のリスクについても、金融機関は十分に認識しておく必要がある。金融機関は、個人情報や信用に関する情報など、機密性の高い情報を取り扱う機会が多いこともあり、生成AIの導入に当たっては、こうしたリスクをコントロールする必要があると考えられる」
まず、こうした調査の前段の話から入ったのは、ほかの業界でも同様の調査を行っていく上で、自らの業界の特性と生成AIの関係についての問題意識を明確にしておくことが非常に重要だと考えるからだ。
日銀では上記の問題意識のもと、2024年4月から5月にかけて、大手銀行、地方銀行、信用金庫など155の取引先金融機関を対象にアンケート調査を実施した。以下、調査結果のエッセンスを紹介する。
まず、金融機関における生成AI の利用状況は、現状で約3割が既に利用しているほか、試行中も約3割あり、利用中と合わせると約6割が何らかの形で生成AIの利用を進めている。さらに、将来的な試行・利用を検討している先を含めると、約8割が生成AIの活用を進めようとしており、金融機関における生成AIの利用が急速に広まっている(図1)。
図1:生成AIの利用状況(出典:日銀の調査レポート「金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理」)
生成AIの導入目的では、利用・試行中のほぼ全ての金融機関が「業務効率化/コスト削減」と回答した(図2)。
図2:生成AIの導入目的(出典:日銀の調査レポート「金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理」)
生成AIの主な利用分野としては、顧客との面談記録や銀行業務の専門書、マーケット情報などの「文書の要約」、リーガルチェックなどの「文書の校正・添削・評価」、海外規制などの「翻訳」といった文書作成の補助や、コーディングやテスト項目の作成、障害発生時の対応などの「システム開発・運行管理」が挙げられる(図3)。
図3:生成AIの利用分野(出典:日銀の調査レポート「金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理」)
この結果について調査レポートでは、「金融機関では、業務の性質上、書面を取り扱う機会が多いほか、事務処理に当たっては多岐にわたるシステムを利用しているため、生成AIの導入による労働生産性の向上を期待しているものと推察される」と記している。
生成AI利用開始後の評価としては、「期待を上回る」あるいは「おおむね期待通り」と相応にポジティブな声が聞かれる。期待を上回る評価が最も多かった用途は、「システム開発・運行管理」。生成AIが有用なツールになり得ることを示唆している。一方、「規程などの情報検索」については「期待を下回る」との評価が多く見られた(図4)。
図4:生成AI利用開始後の評価~業務効率化/コスト削減について(出典:日銀の調査レポート「金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理」)