「ChromeOS Flex」を初めて試したとき、小さな奇跡のように感じた。このプラットフォームは、古くなったx86ハードウェアに新たな命を吹き込み、ほこりまみれのノートPCを軽量で安全性と効率に優れたデバイスに変えたからだ。このときは、電子廃棄物を削減するだけでなく、変化のペースが速まるテクノロジーの世界で古いシステムの使用可能期間を延ばす、大きな可能性を秘めたソリューションだと考えていた。
だが、その時点で欠点も認識していた。ChromeOS Flexはその革新性と同じくらい、「Android」アプリのネイティブサポートがないという明白な欠点が目についた。Googleの大規模なエコシステムを十分に活用できないことが、多くのユーザーが利用を控える決定的な理由になった。さらに、x86アーキテクチャーに依存していたため、「Arm」ベースのコンピューティングへの移行が急速に進む市場において、遺物のように感じられた。このような欠点があったために、ChromeOS Flexがニッチなソリューション以上のものになれるかどうか、疑問に思っていた。
「ChromeOS」とAndroidを統合するGoogleの計画を裏付けるような報道があることから、同社がこれらの問題の解決に向けてかじを切っていることは明らかだ。Googleの戦略を長年観察してきた筆者は、この統合が必要な措置でもあり、ArmベースのノートPC/タブレット市場での位置付けを見直す好機でもあると考えている。というのも、先ごろ、米司法省がGoogleのウェブブラウザーと検索の独占の解消に向けて「Google Chrome」の売却を求めたとの報道があったからだ。
統合が理にかなっている理由
現実は単純だ。GoogleはArmベースのノートPC/タブレット市場をAppleに譲るわけにはいかない。「iPad」は紛れもなく絶対的な地位を確立しており、Appleの「M」シリーズチップ搭載「MacBook Air」は、800ドル以下のノートブックに期待される性能に関して、新たな基準を打ち立てた。Appleは長年にわたり、イノベーションとエコシステムの相乗効果によって、この分野で優位に立っている。
今では、旧式(ではあるがサポートはまだ十分)の「M1」モデルで構わないなら、8GBのMacBook Airがわずか650ドルで売られている。ただし、Appleの最新モデルは16GBの「M2」モデルで、実売価格が799ドルからであることは指摘しておきたい。ブラックフライデーを前に、小売業者は古いM2や「M3」モデルのMacBookの在庫を急いで一掃しようとしており、値引きされた在庫商品が市場にあふれている。その余剰在庫が、学生や教育者、ライトユーザーにとって、非常に大きな価値を生み出した。これらのユーザーこそ、「Chromebook」が以前からターゲットとしてきた層だ。
Googleにとってさらに厳しいことに、AppleのM2ベースの「iPad Air」(599ドル)と無印のiPad(349ドルだが割り引きされることが多い)が、Chromebookとの差をさらに縮めている。iPadとBluetoothキーボードを組み合わせれば、Chromebookの非常に優秀な代替デバイスになり、Appleの最適化されたアプリと強力なハードウェアエコシステムを利用できる。これらのデバイスが教室や日常的なユースケースで主流になり、Googleにとって競争がさらに厳しくなる状況を筆者は目の当たりにしてきた。
ChromeOS Flexと異なり、Chromebookは300ドル台のArmベースモデルやx86モデルを含め、長年にわたりAndroidアプリをサポートしている。しかし、これらのアプリがノートPC向けに最適化されていないという大きな問題がある。ChromebookでAndroidアプリを使用するのは、Macで「iOS」アプリや「iPadOS」アプリを使うようなものだった。動きはするが、よくイライラさせられた。タッチスクリーン向けに設計されたアプリは、キーボードとトラックパッドによる操作にうまく適応できず、マルチタスクはぎこちなく感じられることが多かった。また、ChromeOSはデスクトップをサポートする設計ではないため、真の「デスクトップ」ユーザー体験を提供できない。
その結果、多くの消費者が、Chromebookと割り引きされたApple製品のどちらを選ぶかを、価格だけではなく、機能を考えて決めるようになっている。Apple製品がパフォーマンスと機能の新たなベンチマークを打ち立てる一方で、Chromebookはアプリのサポートとエコシステムの統合が限定的であるために苦戦を強いられている。
未知の要因としてのAI
業界の進化を見守ってきて、1つはっきりしたことがある。AIがパーソナルコンピューティングにおける決定的な差別化要因になりつつあることだ。Googleはそれを認識しており、「Gemini」を製品ポートフォリオ全体に統合したことから、この変化に取り組む同社の本気度がうかがえる。GeminiはAndroidや「Google Workspace」などの製品において、会話型AIから生産性向上機能まで、あらゆる機能に活用され、Googleのエコシステムにシームレスに組み込まれている。
Geminiの機能が深く統合されたArmベースのノートPCを想像してみてほしい。リアルタイムの予測テキスト、インテリジェントなタスク提案、高度なデータ処理が連携して機能し、ワークフローが強化される様子を思い浮かべてみよう。GoogleのノートPCでこのレベルのAI統合が実現すれば、学生、ビジネスパーソン、クリエーターにとって、他にはない魅力的なツールになるかもしれない。
AppleのMシリーズチップは見事だし、Microsoftの「Copilot」は「Windows」で注目を集めている。しかし、いずれもAI統合の規模という点では、GoogleがGeminiで行っているものに及ばない。うまくやれば、これはGoogleの切り札になり得る。AI搭載デバイスが実現できるものを再定義するチャンスだ。