人のやさしさを感じる会社に--ITの刷新と定着で文化を変えた日鉄工営の5年間 - (page 3)

國谷武史 (編集部)

2024-12-09 06:00

生産管理システムは“あえて”手放す

 基幹系システムの領域も多くの刷新を進めた。例えば、同社のような製造業では中心的な生産管理システムを“あえて”手放したのだそう。その理由は、紺野氏の入社以前から高額な生産管理システムを導入していたものの、ほとんど使われていなかったからだという。

 「大手も採用しているシステムで、きめ細かく管理できるものでしたが、使われないシステムにかなりの金額を費やしても工数やコストがかかるだけですから、先代(現会長)に相談して廃棄を決断しました。その代わりに販売管理システムを新しくしました」

 ここでは、基幹システムとして大塚商会の「SMILE V」を採用し、販売管理と会計管理に活用している。販売管理は別の製品を利用していたが、老朽化対策を急ぐ必要があったことから、時間を短縮するため後継となるシステムを採用して、業務を合わせているという。

 生産管理の代わりに販売管理を中心にしたのは、“1点モノ”の塗装ロボットを手掛けているからになる。紺野氏によれば、設計・製造するロボットシステムは仕様が毎回異なる。一つ一つの部品を図面から起こし、毎回異なる数万点規模の部品を調達しているが、部品在庫を抱えることができない。

 「つまり、仕入れの部分が肝です。ネジ1つ取っても毎回ミリ単位で違う部品を調達しますから仕入れの間違えは大きな損失に至ります。以前は、そうしたことがよく発生していたので、販売管理システムを活用して早く改善しなければなりませんでした」

 また、コンピューター設計支援(CAD)システムなどで作成している図面データも大量かつ大容量になる。図面データは、長らく社内のファイルサーバーに保存してきたが、紺野氏が管理を引き継いだ時点で、既にストレージの容量がかなりひっ迫していたそうだ。そこでBoxのクラウドストレージサービスを新たに導入し、オンプレミスからクラウドへ移行を順次進めている途中だ。

 「サーバーの可用性がなくディスクも目いっぱいで、バックアップ手段もテープしかなく冗長化されていない状態でした。何とか稼働を続けられているので、ここは時間のある時に手を入れて刷新を進めています」(紺野氏)

システム刷新を定着につなげる推進力

 同社でのさまざまなシステム刷新は、紺野氏がけん引役となって進められてきたが、現場への定着や活用の広がりにおいては、企画業務部が大きな役割を担っている。

 「企画業務部のメンバーは7人います。中小企業としては管理部門の比率が高いと言えますが、手厚くしています。新しいシステムの導入や移行、現場への展開がとても上手で、私はシステムの検討や業務設計で少しつまずきそうな点だけに手を入れるようにしています」

 企画業務部では総務や経理、人事など個々の業務を担当しつつ、外部からの問い合わせ対応や営業担当者のサポートなど活躍の幅がとても広い。「Microsoft Project」を使って工程や人員の調整を行い、確定した情報を前述のデジタルサイネージに表示している。システム刷新やデジタル化の影響は全社的に波及しているが、特に企画業務部の効果が大きいという。

 例えば、勤怠や給与は、以前にMicrosoftの「Excel」を使って手作業で集計や管理していた。勤怠での効果は前述の通りだが、給与業務では弥生の「弥生給与 Next」を導入して、給与明細の作成や発行、提供をクラウド化している。

 以前の方法では、大本の勤怠情報が適切に入力されていないなどの状況から集計や確認が大変だった。そこから給与明細を作成して紙に出力し、一人一人間違いが無いよう慎重に封入しなければならなかった。また、担当者によってはロボットの現地設営を支援するために出張の機会が多くあり、海外では数カ月に及ぶこともあるという。紙の明細のままでは、手渡すタイミングを逃すと、次は相当先になってしまう。

 かつてのこうした状況も勤怠情報が適切に入力されるようになり、弥生給与 Nextを活用して集計や給与明細の作成、発行までが電子化され、作業負担が大きく改善した。クラウドのため、長期出張中の担当者も現地でタイムリーに明細を確認できるようになった。企画業務部 部長補佐の森玲菜さんは、「ほかの人の給与明細を間違って封入してしまったらとんでもないことになってしまいますので、意識を強く持って作業しなければなりませんでした。今では本当に楽になり、助かっています。明細もしっかりと皆さんが確認してくれるようになりました」と話す。

薪ストーブの製造現場では会話を弾ませながらはつらつと作業をされていた
薪ストーブの製造現場では会話を弾ませながらはつらつと作業をされていた

 企画業務部のチームワークもスムーズだという。上述したデジタルサイネージの情報更新作業は入社2年目の関美穂奈さんが担当し、現場の業務活性化に貢献している。「入社前の見学でとても人の優しさを感じる会社だと感じ、今でもその時の気持ちは変わってはいません。入社後も部署に関係なく皆さんに優しくしていただいて、その関係性があるからこそ、『勤怠を入力してくださいね』といったこともお願いしやすいのだと思います」(関さん)

 これらの取り組みでは、社内で使う紙の量が半分に、コストは3分の1程度に減少するといった直接的な効果も出ているとのこと。さらに現在では、勤怠管理システムをラクスの「楽楽勤怠」に移行し、経費精算・ワークフローでは「楽楽精算」を導入している。

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