古河電工が実践する、大規模製造業のものづくりDX--ドメイン知識を持った技術者が主導

石田仁志

2024-12-27 07:00

 日本を代表する大手非鉄金属メーカーの古河電気工業(以下、古河電工)。その歴史は古く、近代化が進んだ明治期に足尾銅山の創設者である古河市兵衛氏が銅の精錬と電線の製造の事業を開始し、以来今に至るまで日本や世界のインフラを支えてきた実績を持つ。そんな同社がいま、2030年における社会変化を見据えて急ピッチでDXに取り組んでいる。同社のDXの取り組み状況について、戦略本部 DX&イノベーションセンター(DXIC) センター長の野村剛彦氏に聞いた。

事業の拡大と裏腹にデジタル面では課題が山積

 古河電工グループは、従業員数約5万3000人、グループ会社数124社、連結売上高が1兆565億円という規模を誇る(いずれも2024年3月時点)。主な事業内容としては、祖業の電線事業を基盤とする「インフラ(情報通信ソリューション、エネルギーインフラ)」をはじめ、銅やポリマー技術を活用した「電装エレクトロニクス(自動車部品・電池、電装エレクトロニクス材料)」と「機能製品」の3つのセグメントに分かれており、複数の分野で国内外にトップクラスの製品を提供している。

 しかし、そういった突出した実績の裏側では、歴史ある大企業に共通する組織運営上の問題も存在している。事業推進においては「実際はさまざまな事業を手掛ける中小企業の集合体に近い」(野村氏)という側面があり、国内だけで多くの事業所や工場、支店、支社があり、研究所も拠点が分散しているため、DXのように全社規模での取り組みは足並みがそろいにくい。

 その中で、各事業に加えてシステムも個別に最適化されており、近年では基幹/工場システムの老朽化やデータ活用の遅れ、グループ全体としてのITガバナンスの事業ごとのばらつきなどの課題が浮き彫りになっていると野村氏は明かす。

 「工場系システムの導入は比較的早かったと思うが、各所に分散していることもあり、更新が追いついていない。そのような状況でデジタル化やデータ化も進んでおらず、データを蓄積し活用する仕組みが整っていない。ITシステムも個別に導入されているため、セキュリティ統制が弱く、標準化も道半ばだ。さらにDXを支える組織のスキル・体制も十分とは言えないため、推進組織を強化する必要がある」(野村氏)

DX認定事業者となり、ものづくりDXを加速

 そこで、同社は全社的なDX推進計画とDXビジョンを策定し、2023年6月に「DX認定事業者」の認定を受け、DX全社展開のスタートラインに立った。現在は、工場系やデータ駆動経営系の「ものづくりDX」と、新規事業系の「コトづくりDX」に分けてDXに取り組んでいる。

 DXICがものづくりDXを、営業統括本部 SD統括部と研究開発本部 サステナブルテクノロジー研究所がコトづくりDXを担当し、2024年度はものづくりDXに重点を置いてグループ内のDXを進めている。

 ものづくりDXでは、「2030年にデータを活用した業務がスタッフ全体に浸透している組織に変貌する」(野村氏)ことを目指し、そのための施策として(1)データ・環境を整える、(2)活用シーンを拡大する、(3)データ活用スキルを育成する――の3つを掲げている。

 データ・環境の整備では、2022年に基幹システムに「SAP S/4HANA」を導入し、事業別システムのSFA(案件管理システム)やMES(製造実績システム)の整備をスタートした。これらの基幹系・事業系データに加えて、エッジのSCADA(監視制御・データ収集システム)などからデータを収集・一元管理する統合基盤のデータベース(DB)の仕組みを整え、今後は用途に応じてデータ分析のための個別DBの開発を進める予定となっている。

 2024年度におおよその基盤を整備した上で、活用シーンの拡大とスキルの育成についても、DXICと現場が連携しながら進めていく予定となっている。IT・デジタルの実装に関しては、関連会社のFITECと協力して進める体制を整えている。

ものづくりDX領域におけるシステム・活用の全体像(提供:古河電工)
ものづくりDX領域におけるシステム・活用の全体像(提供:古河電工)

工場のものづくりを理解している技術者が推進組織をけん引

 2017年に研究開発本部 解析技術センターにIoTやAIの研究を行う組織が設置され、2020年にデジタルイノベーションセンターとして発展した。その後、戦略本部に移管され、2023年にはAI/IoT部門とICT部門が統合されてDXICとなった。

 DXICには、研究系の「AIソリューション・データサイエンティスト育成」と「モノづくりDXの企画・起案」、情報システム部門系の「コーポレート機能改革」と「ガバナンス系」の4つの機能がある。約50人の人員が所属し、必要に応じて事業部門を支援している。

 AI系の人員のバックグラウンドは、統計解析や画像系を担当していた研究開発のメンバーが多く、そこに新人を育成しながらデータサイエンスを内製化している。組織を率いる野村氏も半導体レーザーやパワートランジスター系のエンジニア出身であり、「工場の製造プロセスに精通した技術者がデータサイエンスを学び、活躍している」というスタイルが特徴の一つとなっている。

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