実践事例1:医療機器でのセキュリティ強化
医療機器や自動車などの人命に直結する分野では、暗号化技術や電子署名が不正アクセスの防止と命を守る上で重要な役割を果たしています。例えば、Fortune 500の大手医療機器メーカーは、以下のような取り組みを行っています:
- デバイス資格情報の発行、ファームウェアコードの署名および検証を徹底
- 医療機器に公開鍵基盤(PKI: Public Key Infrastructure)を導入し、メーカーのデータセンターにあるHSMでのみ復号化可能な暗号化された患者データの送信を実現
同社では、これらのセキュリティ・バイ・デザインの運用を通じ、悪意ある第三者による不正な機器操作を防ぎ、安全な治療を実現しています。また、このようなアプローチは、医療業界に限らず、自動車や家電などさまざまなIoTデバイスにも応用することができます。
実践事例2:車両やIoT機器における暗号技術や電子署名の活用
製造業では、幅広い分野で暗号化と電子署名の技術が活用されています。以下はその具体例です:
- 電気自動車(EV)の充電認証:正規プロバイダーのみが充電できる仕組みを暗号化技術で構築
- IoT家電の安全性向上:冷蔵庫の中身を可視化するデータ通信にも暗号鍵を活用し、不正アクセスや操作を防止
- 車両キーのスマート化:暗号化技術を活用することで、スマートフォンから安全に車の施錠・解錠を実現し、盗難を防止
- 製品のライフサイクル管理:設計図面やサプライヤー間で共有する製造指示書に電子署名を組み込み、データが正規のものであることを確認
これらの取り組みでは、製造業が求める利便性とセキュリティを両立しています。車両認証や家電通信でも、具体的な運用を想定し、それに対応するセキュリティ機能を設計段階から取り入れることが効果的です。また、データを暗号化するだけではなく、HSMなどを活用して暗号鍵の管理を徹底することも不可欠です。開発から運用、アップデートに至るまで一貫したセキュリティ対策を行うことで、攻撃を効率的に阻止することができます。
次回は、サプライチェーン全体でのセキュリティ強化について掘り下げます。グローバル化が進む中、製造業のサプライチェーンを介したサイバー攻撃への対策や具体的な実装例をご紹介します。
- 舟木康浩
- タレスDISジャパン株式会社 クラウドプロテクション&ライセンシング データセキュリティ事業本部 セールスエンジニアマネージャ(CISSP)
- 暗号鍵管理ソリューションのプリセールスエンジニアとして20年のキャリアを持ち、政府機関や金融機関を含む多種多様な業界の顧客にシステム設計と導入支援を提供。この豊富な経験を生かし、IoTやクラウド鍵管理など幅広いプロジェクトに参画。また、CRYPTREC暗号鍵管理ガイダンスワーキンググループのメンバーとして、業界ガイダンスやベストプラクティスの策定に積極的に貢献。