前回の記事では、現在のサプライチェーンの構造的問題として、効率化を追求したがゆえに長距離化・複雑化して全体が可視化できなくなっていること、バッファがなくリスクに対して脆弱(ぜいじゃく)になっていることを指摘した。
これを踏まえ、DXによって実現すべきサプライチェーンへの変化は、「リアルタイムな可視化」と「変化への適応性向上」である。「リアルタイムな可視化」が必要なことについては、まず状況が見えていなければ、対策を取ることもできないため分かりやすいだろう。今回は後者の「変化への適応」について解説する。
目指すべきサプライチェーンマネジメント
現在われわれが持つサプライチェーンは、硬直的な構造を持っている。効率とスピードを追求するためにリーンな(無駄のない)サプライチェーンを追求してきたからだ。日本企業が得意とする「JIT(ジャスト・イン・タイム)」はその究極の形の一つと言えるであろう。
しかし、無駄のない構造というものは変化に弱い。変化を受容するだけの余白がないからだ。かといって、変化が多い時代に合わせていたずらに余白を多くしたのでは、コスト競争力を上げることはできない。これに対する一つの解が、「リーンでありつつも状況に適応して変化していくことができるサプライチェーン」というコンセプトである。
市場における需要の急激な変動、顧客や取引先の行動の変容、新しい規制やルールの導入、製造や調達における新しい制約の出現、そしてサプライチェーンを阻害する自然災害の発生など、絶えず変化する内的・外的な状況に対し、固定的な構造を維持した上で対処するのではなく、即座に新たな調達先や製造拠点を追加したり、これまでとは違う物流ルートに切り替えたりするなど、自らのサプライチェーン構造を変化させていけることこそが今後求められるサプライチェーンの形であろう。
多くのコンサルタントやITサービス事業者が今後のあるべきサプライチェーンについてさまざまな言葉で表現しているが、その本質は似通っている。例えば、「アダプティブ(適合型)・サプライチェーン」「ダイナミック(動的)・サプライチェーン」「アジャイル(機敏な)・サプライチェーン」などのコンセプトである。これらは、いずれも変化していく状況に対して適応し、柔軟に変化していくことができるサプライチェーンを志向している。