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組み込みソフト開発支援のエクスモーション、コンサル+ストックビジネスで成長へ

田中克己

2025-02-04 07:00

 製造業向け組み込みソフト開発の支援を展開するエクスモーションが、生成AI支援サービスやオンライン学習などストックビジネスの拡充に乗り出した。中核事業の労働集約型コンサルティングだけでは大きな成長を期待できないとし、人の数に依存しないストックビジネスで生産性向上を図り、業績を伸ばしていく考えだ。

エクスモーション 代表取締役社長 渡辺 博之氏
エクスモーション 代表取締役社長 渡辺博之氏

 2008年に代表取締役社長の渡辺博之氏が立ち上げた同社は、2024年度(11月期)に売上高12億8400万円、営業利益1億5500万円の規模になる。年率15%から20%で伸ばし、2027年度には売り上げを17億5200万円にし、営業利益率を2024年度の12.1%から18%以上にすることをもくろむ。製造業の組み込みソフト開発需要が拡大していることに加えて、ソフトの大規模化・複雑化によって、「ソフトをきれいに作るのが難しくなっている」ことが背景にあると渡辺氏。例えば、複写機が2000年ごろからカラー化、さらにプリンターやスキャナー、FAXなどの機能を取り込んだ複合機に進展したこと。2010年ごろからは自動車の自動運転や電気化、外部との接続などソフトウェアデファインドが進んだことで、組み込みソフトの重要性が増していったこともある。

 エクスモーションはこれらのユーザーから組み込みソフト開発支援のコンサルティングを受注し、業績を伸ばしてきた。しかし、大きな問題に直面する。1つはコンサルタント人材の獲得だ。「コンサルティングビジネスは労働集約型であるため、株主などから、人の採用を増やして売り上げを増やせと言われる」と同氏は話す。とはいっても、業務系コンサルタントとは異なる組み込みソフト開発支援のコンサルタントを容易には見つけられないという。

 同氏によると、在庫管理など業務システムの構築とは異なり、「組み込みソフトは、人ができなかったことを実現する商品やサービスをつくること」にある。例えば、センサーなどを使って自動車の自動運転を実現するには、「こんな方法で」と仮説を立てて、オブジェクト指向とアジャイル開発などでトライアンドエラーを繰り返し、開発する組み込みソフトの精度を高めていく。

 しかも同社のコンサルタントは現場でこうした仮説検証を実践し、ユーザーの技術者らに組み込みソフトの開発を支援する。「ユーザーとワンチームになり、インプリメント(実装)まで支援することが評価されている」と同氏。もちろん開発手順や方法が決まったら、後はユーザーの技術者だけで組み込みソフトの開発を推進する。

 実は、そこから得たノウハウをサービス化し、ストックビジネスを始めた。その1つが、生成AI支援サービス「CoBrain」になる。約2年前に開発に着手し、2024年11月に提供を開始したCoBrainは、ユーザーの技術者が作成した要求定義を生成AIがレビューし、要求の品質向上など精度を上げていく。同社のコンサルタントがユーザーの現場で支援してきた作業を生成AIに任せることで、コンサルタントの人数に依存しないビジネスが可能になるというわけだ。要求定義はその第1弾で、設計やテストなどへと広げていく計画。同時に、「CoBrainなどストックビジネスの営業組織をつくる」とし、同社はデジタルマーケティングに取り組む。

 もう1つは、約3年前から提供を始めたオンライン学習サービス「Eureka Box」になる。仮説検証型のアジャイル開発によって組み込みソフトを速く作るにはIT企業に委託・丸投げしていたらできないため、ユーザーは内製化を試みる。そのためには、ユーザーの技術者を再教育する必要がある。そこで、組み込みソフト開発の教育コンテンツを用意し、オンラインで学べる仕組みを構築した。

 ストックビジネスは新規ユーザーの獲得にもつながる。実は、同社のコンサルティングにおける売り上げの約8割が自動車関連企業であることに対し、Eureka Boxは約25%と少ないという。生成AI支援サービスを含めたストックビジネスになると自動車関連企業の比重は約2割程度になる。つまり、他業種のユーザー獲得による収益拡大を期待できるということ。IT企業はその1つになる。ユーザーは自社だけで技術者をそろえられないとなれば、IT企業に現場に入ってもらってワンチームで開発に取り組むだろう。事実、渡辺氏によると「IT企業の技術者向けリスキリングの需要が増えている」という。

 もちろん、従業員は増やしていく考えだ。現在、79人(うちコンサルタントは約50人)の従業員数を、中途を含めて年5~7人程度の採用を継続する。ソフトウェアテストのコンサルティングを展開するbuboの買収など、常に合併・買収(M&A)も検討しているという。自動車で得たノウハウをほかの製造業などに広げていくことと、生成AI支援サービスなどストックビジネスを伸ばす2面作戦を展開する。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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