東海道新幹線では、1年を通じて上下線の全ての営業時間帯において乗客の利用状況を予測し、需要が高く定期列車だけでは足りないと見込まれる時にはきめ細かく臨時列車を設定している。それにより、乗客が希望の列車に安心して乗車できるように努めているため、乗客の需要を正確に想定することが重要となる。そこで、過去の輸送実績のデータなどを活用して、輸送量を予測するモデルの構築に取り組んでいる。
JR東海は、2025年に開催される大阪・関西万博に向けて、新大阪駅における人流予測にも注力している。改札機の通過データを基にDataRobotで人流予測モデルを構築し、駅員の配置最適化などを図ることで、顧客の円滑な移動を支援することが目的となる。万博開催前のほか、開催後のデータも継続的に活用し、予測精度を向上させることで、駅運営の効率化とサービス向上を目指している。
「過去の改札通過データ、曜日、時間帯、イベント情報などを分析し、将来の駅利用者数を予測するAIモデルを構築した。このモデルに『万博協会の公開データ』などを組み合わせることで、万博開催期間中の駅構内の混雑状況を予測し、駅員の配置を最適化することで、顧客の待ち時間短縮や混雑緩和に貢献する」(中尾氏)
同社は、これらの取り組みをさらに発展させ、他の駅やグループ会社にも展開していく計画である。さらに将来的には、「鉄道業界全体で人流データを共有し、マーケティングやサービス向上に活用できるプラットフォームの構築も視野に入れている」(同氏)という。
JR東海のDX推進は、単なるデジタル化やシステム化にとどまらず、企業文化や働き方改革にも影響を及ぼしている。データに基づいた意思決定が社内に浸透することで、社員の一人一人がデータ分析の重要性を認識し、データ活用スキルを向上させる意識が高まっている。さらに、データ分析によって業務プロセスを可視化することで、業務の無駄を排除し、より効率的な働き方を実現することが可能になっている。
2025年に入ってからは、データドリブンな経営を加速させるため、情報システム部内にデータ分析の中核組織「DASH(Data Analytics Start Hub)」を設立した。今後、社内のデータ分析を推進し、JR東海のDX戦略を支える重要な役割を担っていくとのこと。JR東海は、今後もDataRobotをはじめとする最新技術を積極的に活用し、顧客に最高の鉄道サービスを提供し続けるために、DX推進を加速させていくとしている。

東海旅客鉄道 総合企画本部 情報システム部 担当課長の石川剛志氏(右)と同部の中尾健人氏