アカマイ・テクノロジーズは、事業戦略説明会を開催した。概要を説明した職務執行者社長の日隈寛和氏は、今後の注力分野について「Akamaiはサイバーセキュリティとクラウドコンピューティングの企業として、オンラインビジネスの力となり、守っていく」と語った。
同社はコンテンツ配信ネットワーク(CDN)というコンセプトを生み出したこの分野を代表する企業だが、「CDNビジネスは今後とも非常に重要なビジネスではあるが、Akamaiの売り上げの60%以上が今はサイバーセキュリティとクラウドコンピューティングになっている」と事業ポートフォリオの変化を踏まえた方針だとした。
アカマイ・テクノロジーズ 職務執行者社長の日隈寛和氏
実際に同氏が示した10年間の変遷では、2014年にはCDNが85%を占め、サイバーセキュリティが9%、クラウドコンピューティングが6%という構成だったが、2024年にはサイバーセキュリティが51%、CDNが33%、クラウドコンピューティングが16%だった。カテゴリー別の売上推移を見ると、サイバーセキュリティとクラウドコンピューティングが右肩上がりで成長しているのに対し、CDNは2020年以降年々減少しているという。
日隈氏はこの理由について「CDNビジネスのマーケットシェアは維持しているものの、価格競争が厳しくなっていることが背景にあり、売り上げは落ちている」と説明した。一方、2024年度の対前年比成長率は、サイバーセキュリティが16%成長、クラウドコンピューティングが25%成長となっている。
クラウドコンピューティング事業が本格的にスタートしてから約2年だが大きな成長を遂げており、今後の成長領域として注力していく方針だ。とはいえ、サイバーセキュリティ/クラウドコンピューティング共に、CDNのインフラがあってこその事業でもある。同氏は「Akamaiが持っているCDNの超分散型のアーキテクチャーの上に、サイバーセキュリティやクラウドコンピューティングのビジネスが成り立っており、CDNはわれわれにとって非常に重要なインフラだ。CDNがAkamaiの源/源泉であり、今後とも戦略的にしっかりと強化していく」と語った。
アカマイ・テクノロジーズ マーケティング本部 プロダクト・マーケティング・マネージャーの中西一博氏
マーケティング本部 プロダクト・マーケティング・マネージャーの中西一博氏は、2025年の注力分野についての詳細を説明した。サイバーセキュリティの分野では「サイバーレジリエンス(BCP/回復力)の強化」「セキュアなビジネスの拡大に貢献」「さまざまなコンプライアンスへの対応」の3点が挙げられた。
具体的な製品としては、サイバーレジリエンスの強化に関しては「App & API Protector」「API Security」「Guardicore Segmentation」「Prolexic」「Edge DNS」「Shield NS53」、セキュアなビジネスの拡大に貢献に関しては「App & API Protector」「API Security」「Bot & Abuse Bundle」「Guardicore Segmentation」、さまざまなコンプライアンスへの対応に関しては「App & API Protector」「API Security」「Guardicore Segmentation」「Client-Side Protection & Compliance」がそれぞれ対応製品として挙げられている。
クラウドコンピューティングの分野では、「オブザーバビリティの活用」「マルチクラウドポータビリティー」「エッジネイティブアプリの活用」「分散データ配置による低遅延化」の4点が挙げられた。
米Akamai TechnologiesのDirector of Corporate Sustainability & ESG OfficerのMike Mattera氏
最後に、来日していた米Akamai TechnologiesのDirector of Corporate Sustainability & ESG OfficerのMike Mattera氏が「Akamaiのサステナビリティーにおけるビジョンと戦略、2030年に向けたゴール」について語った。
同氏はAkamaiのサステナビリティーへの取り組みとして、2030年までに「温室効果ガスのNet-Zero Emissions(正味排出量ゼロ)の達成」「100%再生可能エネルギーへの転換」「データセンター及び運用におけるエネルギー効率向上」「サプライヤーとの協業によるサステナビリティーの実践」「循環型経済の実現」の5つの目標を達成するとした。
一方で、米国でトランプ政権が発足して以降、サステナビリティーへの取り組みに関しても従来の政策からの転換が行われているとの報道もある。こうした政府の方針について米国社会/米国企業はどのように反応し、今後どのように行動していくのかと同氏に尋ねたところ、方針に変更はないとの回答を得た。以下、同氏の回答を紹介する。
「まず、Akamaiの立場としては、前述の通り2030年までとしたNet-Zero Emissionsや100%renewable Energyに関する取り組み目標に変更はない。この方針は、取締役会や経営幹部の合意であり、会社全体で一貫している。大統領選のサイクルに従って政策が変わり、トランプ政権の発足によってわれわれのビジネスにも影響が生じるのは確かだ。しかし、われわれのサステナビリティーおよび環境への取り組みは政治情勢などの外部要因の影響とは無関係に一貫して継続される。株主、顧客、従業員など、関係者全てが環境に対する取り組みがAkamaiの事業にとって重要だと考えているためだ。確かに政治的な側面からの変化が社会や企業活動にインパクトを与えているが、だとしても前述のサステナビリティーに関する目標はAkamaiの事業目標と深く結びついており、変わることはない」
日隈氏は「Akamaiはグローバル企業であり、米国マサチューセッツ州ケンブリッジに本社を置いてはいるが、売り上げの半分以上は米国以外で生じている。それを考えると、やはり地球規模の課題に対してグローバル企業としてしっかりと取り組んでいかないといけないと考えている」と補足した。
米国政府の政策転換を受け、特に多様性推進のための施策に関しては民間企業の中にも政府に合わせて重視方針を取り下げることを表明した企業もあるが、サステナビリティー/環境問題に関してはそれほど目立った動きはないようだ。もちろん、こうした取り組みをコスト増として捉え、できればやりたくないと考えている企業や組織も存在するだろうが、こうした取り組みの意義を認めている企業では政権が代わって政策が転換しても特に影響はないようだ。政権交代に伴う混乱はしばらく続きそうだが、中長期的な視点に立って最善の道を選ぶ意識が大切だろう。