BroBとBtoC:2つの戦場における“意図”の可視化
営業の世界は、静かに、しかし確実に転換点を迎えています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行によってリモート商談が一気に一般化し、顧客接点のデジタル化が急激に進む中、営業現場では、「今、誰に、どのタイミングでアプローチすべきか?」という問いがより重要性を増しています。もはや、昭和の主流だった“足で稼ぐ”だけの営業は限界を迎えていると言えます。
ここに台頭してきたのが、「インテントデータ(Intent Data)」という、営業にとっては革新的な新たな武器です。
インテントデータが描き出す顧客の今
インテントデータとは、顧客がウェブ上で発した検索ワード、閲覧履歴、比較行動などから得られる意図の兆しを読み取るデータ群です。単なる属性や購買履歴とは異なり、今まさに何を求めているかを可視化できる点が最大の特徴です。
例えば、「ERP 比較 2025」や「業務効率化 SaaS」といったキーワードを検索し、複数のホワイトペーパーをダウンロードしている企業担当者がいたとします。それは、今まさに課題解決に向けて動いているシグナルであり、営業が即時アプローチすべきタイミングであると判断できます。
インテントデータは、営業活動の「誰に、どのタイミングで、何を売るか」の全てのプロセスにおいて進化を及ぼします。経験や勘に頼る営業から、リアルタイムに、「買う準備ができた」相手に接近する営業へとシフトするのです。
BtoB営業:複雑な意思決定の中に“兆候”を見つける
BtoB(Business to Business:対法人ビジネス)領域では、購買の意思決定プロセスが長く、関与者も多いのが特徴です。見込み顧客を見つけるには、相当な時間とリソースがかかるのが常でした。しかし、インテントデータを活用すれば、企業ドメイン単位で「今、どの部署が、どんなテーマに関心を持っているか」を明確に把握できるようになります。
例えば、同じ企業の複数人が「ゼロトラスト セキュリティ」の資料をダウンロードし始めたとすれば、それは何らかのプロジェクトが立ち上がっている可能性が高いでしょう。この「行動の共鳴」は、通常のリードスコアリング(購買可能性の度合い)では、拾うことはできません。インテントデータは、こうした企業全体の熱量の高まりをいち早く察知し、営業へ共有することを可能にします。
さらに、「アカウントベースドマーケティング(ABM)」と組み合わせることで、個社単位での最適な提案、資料、タイミングを設計可能です。これは、「数撃ちゃ当たる営業」から「一点突破の戦略的営業」へと進化する構造転換を意味します。このことは、営業人材の効率的な活用だけではなく、モチベーションの向上、顧客サイドの視点からは、企業の信頼度アップにもつながります。
BtoC営業:今すぐ買いたい人への接近
一方で、BtoC(Business to Consumer:対消費者ビジネス)の現場では、消費者一人ひとりの購買行動を、いかに「点」として精緻に捉えるかが鍵を握ります。
あるユーザーがECサイトで数回にわたって特定ブランドの商品を閲覧し、比較レビューを読み、カートに入れたが購入しない――この行動だけでも、今、そのユーザーが、買いたいけれど迷っている状態にあることを推測できます。インテントデータは、このような未確定の「兆し」を捉え、営業チャットやリターゲティング施策(顧客の再訪を促す施策)を即座に走らせることを可能にします。
特に重要なのは、それが「押し売り」と感じさせないことです。さらにインテントAIは、顧客の「自然な興味の流れ」に沿った接客設計を可能にします。つまり、マーケティングと営業の境界線をなくし、「購買の瞬間を逃さない」仕組みを実現できます。