音楽、映像、ゲーム、ライブ――1人の感情を揺さぶるエンターテインメントは、常にテクノロジーとともに進化してきました。フィルムからストリーミングへ、放送からオンデマンドへ、そして今、もう一段深い進化が始まろうとしています。
エンターテインメントの変化の源泉となるのが、「インテントAI」です。視聴という受動体験を超え、観る人の“今”に呼応するエンターテインメント体験が、目前に迫っています。
エンターテインメント業界の進化の現在地
この10年、エンターテインメント業界はプラットフォームの革新が大きな潮流になりました。「Netflix」「Disney+」「Amazon Prime」といったOTT(Over the Top)サービスが台頭し、コンテンツ流通の主導権はテレビからインターネットへ移りました。視聴者は、「決まった時間に決まった場所で」から、「好きな時に好きな場所で」というスタイルを獲得しました。しかし、ここで一つの問いが生まれます。
果たして、“コンテンツそのもの”は進化してきただろうか?
多様な視聴データ、選択履歴、ジャンルの傾向などのデータを収集できるようになったにもかかわらず、その多くは、「おすすめ機能」や「レコメンドアルゴリズム」にとどまっているのではないでしょうか。本当の意味で、コンテンツ制作や体験の本質が「個別のインテント」に呼応して変化する――その未来は、まだ十分に実現されていないのではないでしょうか。
Netflixが変えた「つくり方」:データ×創造の現在地
コンテンツの進化、その転換を象徴する企業がNetflixです。Netflixは、視聴者データの活用を、単なるレコメンドではなく、「コンテンツ制作の源泉」として活用しました。
代表的な事例が、「House of Cards」(邦題:ハウス・オブ・カード 野望の階段)です。制作段階から、政治スリラーが米国視聴者に好まれる傾向や、主演のKevin Spaceyの人気、David Fincher監督作品の視聴完走率などを分析し、ヒットを「設計」しました。
この手法は、まさにデータドリブンなコンテンツ制作であり、「創造は勘と経験」という常識を打ち破りました。しかし、ここで使われているデータは、あくまで過去の視聴ログです。「既に観たもの」から「次に観るべきもの」を推測するアプローチには、リアルタイム性や感情の機微までは捉えきれない限界があります。