Atlassianは米国時間4月9~11日、カリフォルニア州アナハイムで年次カンファレンス「Team'25」を開催した。同社は2024年5月のこのイベントで「System of Work」を掲げ、今回はAIを活用してSystem of Workに基づく働き方を具現化していく多数の取り組みを発表した。同社のキーパーソンらに取り組みのポイントや方向性を聞いた。

Atlassian プレジデントのAnu Bharadwaj氏
プレジデントを務めるAnu Bharadwaj氏によると、System of Workとは、ソフトウェアのビジネスを手掛ける同社の実体験に基づいた“哲学”だという。2002年に創業したテクノロジー企業であり、20年以上をかけてグローバルで30万社以上の顧客を支援している実績があり、テクノロジーの組織とビジネスの組織が1つのチームとして協働し、目標を達成していく経験を“昇華”したものだそうだ。
「System of Workは、エンタープライズ企業のモダンな働き方、変化に即して、どのように仕事をしていくのかを示したわれわれの考え方であり、オピニオンでもある」(Bharadwaj氏)
コロナ禍を経て広まった新しい働き方は、どちらかと言えば、就業する場所や時間などの制度的な仕組みに幅を持たせる意味合いが強かっただろう。しかし本来は、個々人が多様な仕事の仕方を柔軟に選択して、より良い働き方を実現することにあるという。それを組織全体、“チーム”として実現していくのが、System of Workであるようだ。そのような本来の新しい働き方を具現化していくテクノロジーが、急速に台頭する生成AIやAIエージェントだ。
Bharadwaj氏がTeam'25の基調講演で明かした同社の調査結果によると、AIの活用を通じてソフトウェア開発者の62%が生産性向上を実感したと回答し、ITサービス管理(ITSM)の「Jira Service Management」などを利用する立場のIT運用チームでは84%が日常業務にAIを活用していると答えた。
AIがチームワークの“窓口”に
Atlassianは、2024年のイベントで生成AI/AIエージェントのプラットフォーム「Rovo」を発表し、同10月に一般提供(GA)を開始した。Rovoでは検索の「Search」、チャットボットの「Chat」、AIエージェントの「Agent」を備え、今回のイベントではAIエージェントの作成や管理などを行う「Studio」を追加し、プラットフォームをより強化した。

Atlassian AI製品責任者 バイスプレジデントのJamil Valliani氏
AI製品の責任者を務めるバイスプレジデントのJamil Valliani氏によると、同社のAI製品としては、「Atlassian Intelligence」がRovoより先になる。Atlassian Intelligenceは、プロジェクト管理の「Jira」やナレッジ共有の「Confluence」などに組み込まれ、ユーザーが蓄積している膨大な情報の編集、生成、要約などができる。ただ、同社のAIとしては今後Rovoが中心になっていくようだ。
Valliani氏は、「AIは能力を高める重要なテクノロジーと位置付けている。Search、Chat、Agentはチームコラボレーションに不可欠な中核機能だが、GA後すぐに、人間とAIがチームコラボレーションをしていくという先進ユーザーでの変化に気付き、AIがより多様な用途に対応でき、AIを成長させていくためにStudioを加えた」と説明する。
GA後のRovoは、毎月100万ユーザー以上が利用し、既にSystem of Workで実現するチームコラボレーションの基盤となっている。JiraやConfluenceなどを通じて蓄積された膨大なプロジェクトやタスク、ナレッジなどの情報基盤「Teamwork Graph」と、50種類以上のコネクター経由で接続するサードパーティーアプリケーションのデータ、同社がホストしているOpenAIやAnthropicなどの複数言語モデルから、ユーザーに合わせた情報を高精度に提供しているという。
Searchでは、拡張検索生成(RAG)としても活用できるほか、Chatでは自然言語による問い合わせに加え、今回のイベントでは独自開発という専門的な調査とレポート作成の「Deep research」機能も加えた。Agentでは、Atlassian自身だけで10万種類のエージェントを既に開発して全社的に利用し、例えば、技術文書の作成、レビュー、改良といったユースケースがあるという。その一部およびサードパーティー製エージェントをマーケットプレースでユーザーに提供する。これらにStudioを追加したことで、人とAIが協働していく環境を実現していけるようになった。

生成AI/AIエージェントプラットフォームの「Rovo」
Rovoを始めとするユーザー個人やチームの情報活用で同社を特徴付けるのが、Teamwork Graphになり、同社は多大な投資をしているとのこと。データレイクとグラフデータベースで構成されているといい、100億件ものデータが多様なメタデータと共に相関付け、権限やアクセス制御を適用した形でユーザーに合わせた情報提供を可能にしている。
Teamwork Graphを最も使いこなしているのは、やはり同社自身で20年以上のビジネスのあらゆるデータを蓄積しており、Valliani氏は、「Atlassianに入社してまだ2年だが、蓄積されている膨大な社内ナレッジで入社以前の状況も理解を深めることができ、業務に役立っている」と述べる。