八千代ソリューションズ、壁と崖に直面する製造業に「報われるDX」--「MENTENA」にAI新機能

加納恵 (編集部)

2025-04-17 07:00

 建設コンサルティングなどを手掛ける八千代エンジニヤリングの子会社である八千代ソリューションズは4月16日、クラウド設備管理システム「MENTENA(メンテナ)」の新機能を発表した。併せて、労働力不足や技術継承問題など、製造業が抱える課題について、対応策などを示した。

 八千代ソリューションズは2024年に設立。親会社である八千代エンジニヤリングは、道路やダムといった社会インフラの整備や運用管理などを手掛ける老舗企業。八千代ソリューションズ 代表取締役社長の水野高志氏は「インフラの整備に60年以上関わる中で培ったノウハウを民間にも提供できるのではという思いから新会社を設立した」と経緯を話した。

八千代ソリューションズ 代表取締役社長の水野高志氏
八千代ソリューションズ 代表取締役社長の水野高志氏

 MENTENAは、八千代エンジニヤリングが公共向けに提供してきたサービスの知見を生かして開発したシステム。「Excel」や紙を使って管理していた設備管理をクラウドへと移行できる。リリースから約5年で、建設業や食料品、化学会社など500社を超える企業での利用実績がある。タブレットやスマートフォンなどの端末を使い、点検をしながら設備の状態を記録でき、予備品まで併せて管理できることが特徴。クラウド環境で一元管理できるため、他者や他部署とも情報を共有し、予防保全にもつながる。

 「製造業は、団塊世代が高齢化して卒業時期を迎える『2025年問題』と設備自体が老朽化し、ITサポートなどが終了する『2025年の崖』という2つの壁と崖に直面している。この状態は製造業の設備だけではなくインフラも同じ。製造業もインフラもデータに基づいた効率的な管理が求められている」(水野氏)と重要性を訴える。

 新たに機能として追加した生成AI機能は、依頼業務における記述の不備をAIで是正するもの。「ChatGPT」の提供元であるOpenAIのAIモデルを使用し、部門間での作業プロセスの標準化や記載の不備による手戻りの削減により、設備管理業務の質と生産性を向上させる。

 具体的には、製造現場から保全部門に作業を依頼するリクエスト機能で、記載内容の整合性を、AIを用いてチェックする。タイトルと概要の不一致や写真の添付漏れ、不適切な表現などをAIが作業依頼前に検知することで、省力化と対応スピードの向上を目指す。

記載内容の整合性を、AIを用いてチェックする新機能。指摘なしの画面(左)と指摘ありの画面(右)
記載内容の整合性を、AIを用いてチェックする新機能。指摘なしの画面(左)と指摘ありの画面(右)

 「設備修理を保全部門に依頼する際、承認者から差し戻されるケースが非常に多い。中身を見ていくと記載ミスや添付忘れのようなところで差し戻しが発生しており、ここに手間と時間が生じていた。これをAIで事前チェックできるようにした」(八千代ソリューションズ 最高執行責任者(COO)の山口修平氏)と、現場の声を生かす。

八千代ソリューションズ 最高執行責任者(COO)の山口修平氏
八千代ソリューションズ 最高執行責任者(COO)の山口修平氏

 7月には、作業報告の文章をキーワードを選択していくことで作成できる「作業報告文章生成」AI機能のリリースも予定しているとのこと。「キーボードを使っての入力作業を面倒に感じる技術者もいる。作業結果に応じたキーワードを選択することで、自動で作成できる機能を追加したい」(山口氏)と作業の自動化を進める。

作業報告文章生成
作業報告文章生成

 設備管理については同様のサービスも登場しているが「日常の設備点検から部品の管理まで、ペーパーレス化できるのがMENTENAの特徴。こうしたシステムは現場に定着しづらいという見方もあるが、導入前だけではなく導入後のサポートにも力を入れることで評価いただき採用につながっていると考えている」(山口氏)と強みを明かす。

 大手企業の製造業や不動産業などを中心に導入を進めているが、最近では他社サービスからの乗り換えも増えているという。

 水野氏は「暗黙知を形式知にすることで、経験豊かな先輩社員が卒業しても、設備を安定化できる仕組みを作れる。私たちはMENTENAという製造業における設備管理のシステムからスタートしたが、これを利用し、企業の価値を最大化できるような意思決定支援ツールを目指していきたい」と今後を見据える。

 八千代ソリューションズでは、2024年12月に製造業の現場で起きている課題に関する独自のアンケート調査を実施。これによると、保全部門における従業員の年齢構成比は「60歳以上の従業員」が19.5%を占めているとのこと。また設備の実稼働年数は「20年以上」が55%に上るなど、労働力不足と設備の老朽化の課題は数字の上でも浮き彫りになっている。

 しかし「経営に悪影響を与える事象」という質問に対しては「原料価格の高騰」(70.4%)、「物価上昇・値上げ」(66.6%)、「景況感の悪化」(61.8%)という回答が上位を占める。

 八千代ソリューションズ 最高戦略責任者(CSO)の吉田聡氏は「設備の老朽化や人材不足については、課題として理解はしていても投資の優先順位は上がりにくい。しかし、1回当たりの設備の突発停止や故障による平均損失額は775万円と算出されており、日本全国の製造業の工場22万事業所で1回ずつ発生すると1兆7000億円ものインパクトがある」と現状を説明した。

 同社では、経営と現場の課題を同時に解決するMENTENAの導入により「報われるデジタルトランスフォーメーション(DX)」を推進していくとした。

八千代ソリューションズ 最高戦略責任者(CSO)の吉田聡氏
八千代ソリューションズ 最高戦略責任者(CSO)の吉田聡氏

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