IT運用業務の効率化を支援するPagerDutyは4月10日、東京都内でプライベートイベント「PagerDuty on Tour Tokyo 2025」を開催した。併せて「PagerDuty Operations Cloud」の新機能としてAIエージェントを追加することも発表した。

PagerDutyでCEOを務めるJennifer Tejada氏(左)とJapan Country Managerの山根伸行氏
社名となっている“pager(ページャー)”は日本で言うところの「ポケベル」で、携帯電話がまだ普及する前の時代に緊急呼び出しのために使われていたデバイスだ。システム運用管理の担当者は何かあるとPager(ポケベル)で呼び出されてオフィスに向かい、緊急対応を行うという日々を過ごしていたことを踏まえての命名だという。
PagerDuty Operations Cloudは、インシデント管理、AIOps、自動化、カスタマーサービスオペレーションなどの機能を統合したプラットフォームで、IT基盤の運用障害のリスクやコストを軽減できる。
オープニングのあいさつでは、PagerDutyでJapan Country Managerを務める山根伸行氏が、日本法人設立から2年半強で国内のユーザー企業が500社超となったことを紹介し、今回が3回目の開催となった同イベントの意義を「PagerDutyからのアップデートに加え、お客さまやパートナーさまにもご登壇いただき、システム障害対応の未来を徹底議論する年に一度の大会」と位置付けた上で、来場者数が約2000人に達して前回の約2倍の規模に成長していることも明かした。
さらに同氏は、2025年のテーマを「AIと自働化活用による新時代のシステム運用革命」だと紹介。2024年に発表された生成AIの活用に続き、「いよいよ今年(2025年)、AIエージェントを活用したさらに新しいサービスを提供することを発表した」と語った。
続いて、PagerDuty 最高経営責任者(CEO)のJennifer Tejada(ジェニファー・テハダ)氏が、ユーザー企業でもありパートナーでもある富士通 執行役員副社長COO (Fujitsu Uvance)兼グローバルソリューションの高橋美波氏と対談を行った。ここでは、基調講演後にTejada氏に同社のAIエージェントへの取り組みに関して聞いた内容を紹介したい。

対談するPagerDutyのTejada氏(左)と富士通の高橋氏
2024年のイベントから約2倍の規模への成長したことを踏まえてTejada氏は「PagerDuty Operations Cloudに対する日本企業からの関心の高まりの表れだと考えている。基調講演にもご登壇いただいた富士通は、日本市場におけるPagerDutyの重要なパートナーであり、同時にユーザー企業である。富士通のような日本企業とパートナーシップを構築することで、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援し、生成AIやAIエージェントといった最新のテクロノジーから具体的なメリットを得られるように協力していきたい」と語った。
AIエージェントの普及に対しては、「ユーザー企業は今、AIが最も効果的なユースケースを探しているところだろう」と語る一方、「PagerDutyではAIエージェントが有効なユースケースとして、コードの展開やコーディングの支援が有望だと考えており、『Agentic Site Reliability Engineer』を開発している」(同氏)とした。
Agentic Site Reliability Engineerは「PagerDuty AIエージェント」に含まれる機能の1つで、2025年第2四半期からベータ版の利用が可能になる。SRE(Site Reliability Engineering)は、Googlのエンジニアリングチームから生まれたコンセプトで、ソフトウェアツールを活用してシステムの管理や問題解決、運用タスクの自動化を行い、スケーラブルで信頼性の高いソフトウェアシステムの構築を目指す。
PagerDutyの中核機能と直結する部分であり、AIエージェントによる支援が実現すれば、ユーザー体験が大きく変わってくることが期待できるだろう。さらに、これまでは障害発生時の対応をランブック(手順書)などに定義しておき実行していたが、こうした緊急対応をAIエージェントが自律的に実行してくれる未来もあり得るかも知れない。
Tejada氏は、基調講演での対談で富士通の高橋氏が指摘した「日本の労働人口の減少」について、グローバルでも同様に優秀な人材の確保が難しくなっているとした上で「AIエージェントの活用によって労働力の需給ギャップを埋めると同時に、人間がより重要な仕事、高度な熟練技術や創造性を求められるような仕事や社会的な意義の大きな仕事に集中できるよう、日常の細々した作業などを任せてしまえるようになる」との展望も語った。
なお、AIがミスや間違いを犯すリスクについては、「AIを人間の作業の輪の中に取り込み、人間同士が支え合うのと同じように、AIについてもその作業を適宜チェックできるような形にすることで、AIのミスが連鎖的に拡大して深刻なトラブルに発展してしまうことを避ける」という方針をTejada氏は示した。
最後に、同氏は日本市場におけるAI技術の受け入れ状況に関して、「富士通の高橋氏とも話したことだが、やはり勇気を持ってまず試してみることが大切だ。AIの活用は日本企業にとってもさまざまな価値をもたらし、業務をより迅速かつ効率的に処理できるようになるはずだ。リスクを気にしすぎることで変革を遅らせてしまうことは避けるべきだ」と指摘。「PagerDutyにとってAI技術は一時的なブームのような話ではなく、長期にわたって継続する取り組みとなり、今後も進んで行くであろうテクノロジーの複雑化の問題に適切に対処していくことに役立つはずだ」とする。
その一方で、「世界中の多くの企業がAIを活用して自動化を達成したとしても、レガシーシステムも依然として残り、システム構成は複雑になっていくだろう。何らかの原因でミスやトラブルが発生する可能性はなくならないが、そうした際にもそれがビジネスに深刻な影響を及ぼす規模にまで拡大してしまう前に適切に対処できるように備えておくことが大切だ」と締めくくった。