グーグル・クラウド、AIエージェント時代のパートナー戦略--AIとクラウドで提供する価値

加納恵 (編集部)

2025-04-23 16:33

 グーグル・クラウド・ジャパンは4月22日、富士通とSCSKを迎え、パートナー事業戦略を発表した。生成AI、AIエージェントが急速に進展した2024年を振り返ったほか、2025年の戦略などを話した。

 グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏は「2024年の初頭は概念実証(PoC)や実験的な使われ方をしていた生成AIだが、中盤になると汎用(はんよう)系の業務に組み込まれ、後半になるとコア業務に組み込み、企業が責任を持って使う段階へと移ってきた。これにより、生産性向上、コスト削減、収益・利益拡大の方向へと大きくシフトしてきている。『Google Cloud』は、AIとクラウドの掛け合わせによるイノベーションを推進し、お客さまの取り組みを加速する」と急激に進化する生成AIについて説明した。

グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏
グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏

 Google Cloudを活用した事例として、TBSテレビとカインズの2社を例に挙げた。TBSテレビは、番組で使用した映像素材のメタデータ付与に生成AI「Gemini」を活用し、90%の時間削減と品質の安定化を実現。カインズでは、商品検索にGoogle検索の品質情報検索と回答を生成するシステムである「Vertex AI Search」を導入し、再検索率を5%低下させたという。

 平手氏は4月に米国ラスベガスで開催したイベント「Google Cloud Next 2025」でもAIエージェントが話題の中心だったことに触れ「日本のエンタープライズ領域においても、2025年はAIエージェント元年。Googleの最高経営責任者(CEO)であるSundar Pichai氏はAIエージェントについて『人間のように考え、計画し、記憶し、複数のステップを先読みして行動できる。さまざまなソフトウェアシステムと連携し、ユーザーの監督下で動作する』とコメントしている」と紹介した。

 AIエージェントの活用領域においては、(1)さまざまなツールを横断した情報収集が可能になる、(2)エンドツーエンドでの業務代行、(3)人材不足やスキルセットのばらつきを補完し、イノベーションを創出する――の3つを挙げた。

 「AIエージェントは、お客さまのビジネスにおいて、業務の効率化、コスト削減、意思決定のスピードアップ、さらには顧客体験の向上や競争力強化などに貢献している」(平手氏)とした。

 2024年の実績については、パートナー総数が過去4年間で2.1倍に増加したほか、パートナー経由でのGoogle Cloudの売り上げが4.3倍に成長するなど、順調に推移したとのこと。併せて、経済産業省「国産LLM開発強化プロジェクト (GENIAC)」でGoogle Cloudの計算基盤が活用されたほか、Sakana AIなどのスタートアップや、東京大学、国立情報学研究所(NII)といった学術団体にも提供すするなど、広く支援する。

 パートナーエンジニアリング技術本部 統括技術本部長の坂井俊介氏は、「Google Cloudの成長を支えているのがパートナー企業の方における技術力の向上。過去4年で認定資格数は9.9倍、認定資格者数は8.7倍に増加した。さらに高度な専門知識を持つ『Partner Top Engineer』の人数は11.3倍に増加している。これにより複雑なソリューションが提供できる」と成長の要因を示す。

4年でパートナーの認定資格者は大幅増加
4年でパートナーの認定資格者は大幅増加

 新たに、生成AIの実装において、技術的な専門知識を持つパートナーを認定する制度として「Generative AI スペシャライゼーション」を設けたことも発表。日本においては、最初のパートナーとしてアクセンチュアを認定したという。

 2025年の事業戦略については、「早い段階からAIを積極的に使ってきたアーリーアダプターが力強い存在感を放ち、市場を独占している。AIへの投資は急増しており、これは企業だけでなく、政府もAI主導の成長を後押しするような政策を打ち出している。また、AIエージェントが主流になりつつある」(パートナー事業本部 上級執行役員の上野由美氏)と市場を分析。

 加えて、企業は業務を自動化するためにマルチモーダル大規模言語モデル(LLM)の採用を開始しているとし、AIの活用が実験段階から具体的な成果を求めるフェーズへ移っていることを指摘する。こうした状況を踏まえ、「データセンターの需要も急増している。AIが必要とする処理能力を持つインフラを支えるための投資が不可欠になっている。この状況下でハイパースケーラーが企業のAI導入の障壁を取り除く役割を果たしている」(上野氏)と重要性を説いた。

 特に注目されている動きとしてマルチモーダルAIを挙げ、「GoogleのGeminiはマルチモーダル機能において特に強みを発揮する。画像の内容を説明するだけでなく、画像に関する質問に応えたり、複数の画像の組み合わせからストーリーを生成したりできる」(上野氏)とアピールした。

 上野氏は、Google CloudとNational Research Groupが実施した生成AIのビジネス貢献度の調査結果から、重要なポイントとして(1)投資収益率(ROI)、(2)年間収益成長、(3)価値実現までの時間短縮――の3つを紹介した。

 調査結果によると、調査対象企業の74%がAI投資でROIを獲得済みで、30~35%が今後1年以内に達成する見込みとのこと。年間収益の成長については、86%の企業が生成AIを活用し、収益の増加に結びつけている。また、生成AIは、導入から効果が出るまでの期間が短いことが特徴になっており、84%の企業で6カ月以内に価値実現ができたと回答しているという。

 上野氏は「導入から約1年で収益成長に大きく貢献している。生成AIは、導入後すぐに効果が出始め、長期的に見ても収益を押し上げてくれる非常に頼りになる技術と言える」とまとめた。

 AIがビジネスに変革を起こす中、Google Cloudは、パートナー戦略を3段階に分ける。第1段階となる「Transformation 1.0」では、パートナーエコシステムの強固な基盤作りと成功事例の創出に注力。特定の業界に深い専門知識を持つパートナーと連携し、業界特有のニーズに対応した革新的なソリューションを共同で開発していく。

 次に、重点パートナーとの協業による大規模な販売活動を実施する「Transformation 2.0」では、事業の本格的な拡大と収益性の向上を目指し、インダストリーソリューションのラインアップを拡充。続く「Transformation 3.0」では、確立された事業基盤に基づき持続的な成長を実行する。パートナーとの連携をさらに進化させ、より強固なシステムを構築。パートナーシップを通じて新たなビジネスチャンスを探し、事業領域を拡大する時期に据える。

パートナーエコシステム変革
パートナーエコシステム変革

 「各業界は、固有の課題を克服して成長するためにデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。ただ、DXの推進はまだ途中であり、特にAIを活用した対応が遅れていると感じる業種も多い。こうした中で、AIエージェントを用いて業界特有の課題を解決するソリューションの開発を目指し『インダストリーソリューション開発部』を新設した。この部門はインダストリーに高い専門性を持ち、パートナー企業と連携し、業界共通の課題を解決するソリューションを開発していく」(上野氏)と「インダストリーファースト」を打ち出す。

インダストリーソリューション開発部
インダストリーソリューション開発部

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