TD SYNNEXのヨーロッパ地域担当プレジデントを務めるMiriam Murphy氏は、4月23~25日に大阪で開催の「Women in Tech Global Summit 2025」に登壇するため来日。欧州での豊富なグローバルビジネス経験を持ち、DE&I(多様性・公平性・包摂性)プログラムの拡充を推進してきた人物だ。
Murphy氏はまず、欧州地域における同社の事業状況について語った。TD SYNNEXの欧州事業は30年以上の歴史を持ち、現在24カ国に7000人の従業員を擁し、約200億ドル規模のビジネスを展開している。事業内容は、携帯電話からデバイス、インフラ、セキュリティ、ストレージ、クラウドに至るまで、同社が提供する製品・サービスの全ポートフォリオにわたる。「デバイスからクラウドまで、エンドツーエンドでポートフォリオ全体をカバーしている点が特徴」(同氏)となる。
現在、特に注力している事業分野や技術分野としては、AI導入の加速が生み出す大きな流れを捉えることを重視していると述べた。具体的には、(1)AI活用を支援するデバイスの更新・刷新、(2)AIを深く組み込んだソリューションの提供、(3)パートナー企業がAI時代の恩恵を享受できるよう支援するプログラムの構築――に注力するという。これらは、ハイブリッドクラウド、セキュリティ、ソフトウェアといった既存分野での取り組みに加え、現在最も注目している新たな投資分野であるという。
欧州におけるAI導入の状況について、Murphy氏は「欧州連合(EU)内外の欧州諸国には確かに非常に強力な規制の枠組みが存在するが、TD SYNNEXとしてはこれを制約要因とは捉えていない」と強調。むしろ、パートナー企業がこうした規制に対応していくのを支援する好機であり、ひいてはAIの進化と普及を後押しする要因になるとの考えを示した。
現在、AIエージェント(あるいはエージェンティックAI)が世界で大きな注目を集めているが、欧州市場では単に業務効率化の手段としてではなく、事業成長を可能にする機会として捉えられているという。「この分野(エージェントAI)を非常に大きなビジネスチャンスと見ている」(Murphy氏)
さらに同氏は、現在のAIをめぐる状況について次のように付け加えた。「顧客にとっては、AIの可能性が多岐にわたり複雑なため、目前のビジネスチャンスを見極めるのが難しい状況にある。また、技術革新のスピードがあまりに速く、常に最新情報を追い続けるのも困難である。こうした中、TD SYNNEXでは、パートナーが活用できるAIエコシステムを構築し支援することに、大きな事業機会を見いだしている」
具体的には、業界動向やベンダーに関する最新情報の提供を続ける一方、トレーニングや実践的なツールを通じてパートナー自身の能力開発を支援することに注力しているという。
欧州とアジア(特に日本)市場間のシナジー(相乗効果)について問われると、世界各国での事業を通じて、市場ごとの独自性を尊重しつつも、相互に学び共有できる共通点もあると述べた。一例として、北米地域の成熟市場やアジア太平洋および日本(APJ)地域での成功事例や知見を定期的に共有し、各市場に合わせて最適化している点を挙げた。さらに、「多くの国・言語を抱える欧州市場の複雑さと、APJ地域の言語・文化などの多様性には類似点が多く、相互に学び合える点が多いため、欧州側もAPJ地域から学ぶことがある」と付け加えた。
DE&Iは「企業文化の基盤であり礎」
次に、Murphy氏が大阪で開催のWomen in Tech Global Summit 2025に参加している機会に、TD SYNNEXにおけるDE&Iへの取り組みとその考え方について聞いた。
同社にとって、DE&Iは単なるプログラムではなく「企業文化の基盤であり礎」だと強調。さらに、DE&Iはビジネス上の強みでもあり、イノベーション、より良い意思決定、顧客や市場の深い理解を促進する力があると信じていると述べた。また、従業員構成が、事業を行う地域社会の実情を反映するものであるべきだとも語った。
Murphy氏は、DE&Iを企業文化として根付かせることで、従業員一人一人が尊重され活躍できる環境を育み、ひいては多様で優秀な人材を引き付けられるようになると語る。これは、単に数値目標や外部の期待に応えるための取り組みではなく、「よりインクルーシブ(包摂的)な職場は、ビジネスにも競争力にも良い影響を与える」という信念と「サーバントリーダーシップ」の考え方に根差したものという。
なお、サーバントリーダーシップとは、「リーダーが現場に寄り添って話を聞き(ヒアリングし)、メンバーを引き上げていくためのメンターとなる」といった同社のマネジメントに対する考え方になる。
具体的な取り組みの一つとして、同社の従業員コミュニティー「ELEVATE」が挙げられた。ELEVATEは数年前に活動を開始し、世界各国で展開している。特に欧州では活動が既に5年間に及び、メンターシップ、トレーニング、地域横断的な議論の場などを通じて、非常に強力なコミュニティーが築かれているという。
4月には日本でも正式に開始された。男性社員を含めた全ての従業員が参画し、組織内での成長や昇進を後押しする環境を作ること、そして女性にとってより魅力的な職場にするための改善点を見つける機会を提供することである。
従業員一人一人が安心して長くキャリアを築ける環境を整えることは、従業員のエンゲージメントや帰属意識の向上につながり、ひいては企業経営の安定と持続的な成長にも直結する。そのため、ELEVATEを通じた職場文化の改善は、経営的な観点からも重要な投資であると位置付けられている。
Murphy氏は最後に、「日本市場は深い歴史と大きなイノベーションに彩られている」と前置きし、「この業界がもたらす全ての成長機会を捉えると同時に、できる限り多様な背景を持つ人材を引きつけ、育成することにも注力してほしい。多様性と包摂性をさらに高めることで、日本のイノベーションにおける成功は続いていくと確信している」と語った。

TD SYNNEXのMiriam Murphy氏