富士通は、2020年10月にスタートした全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)のプロジェクト「Fujitsu Transformation」(フジトラ)で、イノベーションワークスペースツールの「Miro」を活用している。フジトラの取り組みでは、強いリーダーシップのもとに「現場を主役」と位置付け、全員参加型のDXプロジェクト推進を掲げる。
典型的な日本の大企業
2019年6月に代表取締役社長に就任した時田隆仁氏は、就任早々に富士通が伝統的なIT企業の姿から脱皮し、DX企業に変わることを宣言。それを実行するため就任翌年に打ち出したのが「フジトラ」である。
時田氏自ら「最高デジタルトランスフォーメーション責任者」(CDXO)に就き、取り組みが軌道に乗る2023年3月まで旗振り役となって、富士通グループの改革を進めたほか、その成果やノウハウを同社のソリューションやサービスなどにも反映し、デジタルテクノロジーを活用した社会課題の解決に貢献することを目指している。

「Fujitsu Transformation」体制(説明資料より)
プロジェクトの推進体制は、最高経営責任者(CEO)やCDXOをはじめとした「ステアリングコミッティ」、CEO室直下で事務局としての役割を果たす「DX Designer」、各部門においてDXを推進する「DX Officer」のほか、9000人以上の社員が参加する「DXコミュニティ」、650人以上で構成する「フジトラクルー」を中核とし、全社員を巻き込んだ現場での革新活動を進めているところだ。
また、「経営のリーダーシップ」「現場が主役、全員参加」「カルチャー変革」の3点をフジトラ推進のポイントに掲げ、「事業の変革」(CX)、「マネジメントの変革」(MX)、「人・組織・カルチャーの変革」(EX)、「オペレーションの変革」(OX)など6つの変革を通じて、約150のテーマに取り組む。さらに、3カ月を1サイクルとしてアップデートを行う「アジャイル型活動」も大きな特徴だといえる。

富士通 デジタルシステムプラットフォーム本部 Chief Architect 統括部長代理 DX Officerの小久保義之氏
同社デジタルシステムプラットフォーム本部 Chief Architect 統括部長代理 DX Officerの小久保義之氏は、「プロジェクト開始から4年半で、フジトラが経営に対してどんなインパクトを出すのか、生産性向上やエンゲージメントスコアの上昇により利益や売り上げへの貢献、コスト削減の効果が問われる段階に入ってきた」と語る。成果の刈り取りが2025年度以降のテーマとなっている。
富士通は、グループ全体で約13万人の従業員規模を誇る。だがそれは、悪い意味で典型的な日本の大手企業の1社であったことは、時田氏も認めるところだ。
実際、富士通の組織には階層構造があり、物事を決定する際には、それぞれの階層で何度もレビューを行い、それを経て役員会に提案するといった手順を踏むことが一般的だ。意思決定が行われるまで多くの時間と多くの労力を費やしており、残念ながらスピード感に欠ける体質となっていた。
そこでフジトラにおいては、部門やグループ、リージョンなどを横断するといった組織を超えた対話が少なかった点にもメスを入れ、対話の機会を重視。各部門の中での対話を進める「個別チェックイン」、部門間の対話を行う「DXO JAM」、全従業員と対話する「Transformation Now」(FXN)、経営層との対話となる「ステコミ会議」という場を用意。これらを通じたコミュニケーションの強化がフジトラで目指す「富士通を3カ月ごとにアップデート」させる地盤となっている。

「富士通を3カ月ごとにアップデート」させるコミュニケーション(説明資料より)