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セールスフォースCMOが語る自律型AI「Agentforce」と「カスタマーゼロ」戦略

藤本和彦 (編集部)

2025-05-07 07:00

 AI技術の導入が企業活動のあらゆる側面で加速する中、AIエージェント基盤「Agentforce」を提供するSalesforceは、その強力なツールを自社内でも積極的に活用(カスタマーゼロ)している。同社 プレジデント 兼 最高マーケティング責任者(CMO)のAriel Kelman氏は、このカスタマーゼロ戦略こそが、製品の価値を実証し、顧客に最高の体験を提供するための鍵であると語る。

 Kelman氏は、現在を「Salesforceにとって非常に特別な時期」と捉える。市場ではAIをビジネスに組み込もうとする動きが活発化しており、そのユースケースの多くが営業、マーケティング、サポートといった顧客接点業務に集中しているためだ。

 同氏は「企業がAIを真に活用するには、AI機能やデータと深く統合された顧客関係管理(CRM)プラットフォームが不可欠だ」と強調する。Salesforceは、創業当時から提供するCRMに加えて、データ基盤となる「Data Cloud」、そしてAI機能を組み合わせることで、この要求に応える体制を整えており、Agentforceはその中核をなすサービス群である。

 SalesforceがAgentforceの価値に自信を持つ背景には、同社独自のカスタマーゼロという文化がある。「われわれ自身が最初の顧客、すなわちカスタマーゼロとなることで、製品が顧客の手に渡る前にその品質を高め、エンジニアリングチームへリアルタイムにフィードバックを提供できる」とKelman氏は説明する。Agentforceも例外ではなく、社内のさまざまな部門で徹底的に活用され、その有効性が検証されてきた。

 同社の年次カンファレンス「Dreamforce 2024」では、モバイル端末で利用するイベント公式アプリにAgentforceが組み込まれた。数万人が参加し、膨大な情報が行き交うイベントでは、参加者が必要な情報を見つけたり、疑問を解消したりするのが困難な場合があり、これをAIが支援する。

 例えば、「パーティーでビーガン料理は提供されるか?」といった食事の質問から、「明日の分析関連セッションは?」といったセッションの検索まで、自然言語で調べられるようにした。さらに、興味のあるセッションを「私の議題に追加して」と指示すれば、イベント管理システムとAPI連携し、自動的にカレンダー登録が完了する仕組みを構築。「AIエージェントとの対話だけで操作が完結するため、クリック操作の手間が省ける」とKelman氏はその利便性を語る。

 顧客向けのヘルプポータルサイト「help.salesforce.com」にも、Agentforceが導入されている。製品に関する技術的な問題や疑問を持つ顧客は、キーワード検索に頼る代わりに、AIエージェントに直接質問できる。

 Kelman氏によると、2024年10月以降、Agentforceが対応したカスタマーサポートの対話数は63万7000件に上る。ただし、これは人間のオペレーターを完全に置き換えるものではない、と強調する。

 同社では「人間とエージェントが協力する体制」を重視しており、同期間に人間のエージェントが処理したチケット(案件)数は75万件だった。AIが対応できない複雑な問い合わせは、シームレスに人間の担当者へ引き継がれるという。

 「重要なのは顧客に最高のサポート体験を提供すること。エージェントと人間の両方を配置することで、あらゆる問題を解決し、効率化を図っている」とKelman氏は述べる。ちなみに、Agentforceとの対話で問題が解決する割合は、80%に達しているとのこと。

 Salesforceの公式サイトにもAgentforceが実装され、訪問者が製品情報を迅速に発見し、必要に応じて営業担当者とつながることを支援している。Kelman氏は、「顧客が営業担当者に直接聞きにくいような質問も、エージェントになら気軽にできる」と指摘する。

 さらに、コンテンツ管理システム(CMS)上の情報を動的に組み合わせ、訪問者の属性や行動履歴に基づいてパーソナライズされたコンテンツを表示するなど、最適な顧客体験とビジネス成果の向上を目指しているという。

 Agentforceの持つ優位性の1つとして、Kelman氏はSalesforceプラットフォームに組み込まれた「アクション」を挙げる。これは、ユーザーが特定の操作を迅速に実行できるようにする機能であり、「(同社の)顧客が過去25年にわたってSalesforce上に構築してきたもの」という。

 「追加のコーディングなしにエージェントがその操作を実行できる」とKelman氏。これにより、AIエージェントの開発時間をゼロから作る場合より平均16倍も高速化できるとする。

 最後に、Kelman氏はマーケティング領域におけるAI活用の可能性について言及した。特に先進的なユースケースの1つとして「リード(見込み客)の育成」を挙げる。

 例えば、獲得したリードに対し、初期段階ではAIエージェントがメール送信や情報提供、さらには対話を通じてコミュニケーションを図る。AIエージェントは継続的な対話の中でリードの関心度をスコアリングし、見込みが高まったと判断した時点で、初めて人間の営業担当者に引き継ぐ。この仕組みにより、営業担当者は有望なリードの対応に専念でき、マーケティングから営業に至るプロセス全体の効率を大幅に向上させられるという。

SalesforceのAriel Kelman氏
SalesforceのAriel Kelman氏

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