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paizaの片山社長に聞く、「異能をのばせ。」で開くIT人材の未来と可能性

寺島菜央 (編集部)

2025-05-19 07:00

 会員数85万人を有するITエンジニア向け転職・就職・学習プラットフォーム「paiza」を提供するpaizaは、「異能をのばせ。」をコンセプトに、「人類の可能性を最大化する。」ことを同社の存在理由に掲げる。代表取締役社長/CEOの片山良平氏は「一人一人の異能を伸ばすことが、結果的に人類の可能性を最大化すると信じている」と語る。

paiza 代表取締役社長/CEOの片山良平氏
paiza 代表取締役社長/CEOの片山良平氏

 労働人口の減少によって、IT化による生産性向上の必要が叫ばれる中、経済産業省の「IT人材需給に関する調査」(2019年)では、2030年には約79万人のIT人材が不足すると予測されている。paizaは、エンジニアと企業をつなぐ役割を担いながらも、プログラミングを含むITスキルを育成できる場としてIT人材の育成に貢献している。

 paizaの前身となるスタートアップパートナーズを片山氏が設立したのは2012年のこと。エムアウトの社内新規事業として立ち上げ、「スタートアップの成功確率を高める事業づくり」をテーマに、スタートアップに関心のある人材紹介事業を開始した。しかし、マーケティングの強みがなく、事業は半年で一度クローズとなる。その後、ウェブデザインやシステム開発などエンジニアとしての経験を持つ片山氏は、技術者を支援する会社としてギノと名前を改めた。

 最初に提供を始めたのは、ITエンジニアの転職サービスである「paiza転職」だった。当時、スタートアップ企業ではエンジニアの採用に行き詰まる企業が少なくなかったと同氏は話す。技術力はあるものの自己アピールが苦手なエンジニアや、企業側のエンジニアの見極めの難しさが課題だったという。そこで同氏は、エンジニアのプログラミングスキルをオンラインで測定し、スキルをランク付けした上で企業との最適なマッチングを可能にするpaiza転職を開発した。その後、学習プラットフォーム「paizaラーニング」などを展開し、2020年に社名をpaizaに変更する。

 paizaラーニングは、ブラウザー上でプログラミングの学習動画の視聴と、記述したプログラムの実行ができる。スキルチェックでは、S~Eの6段階でユーザーは今の実力を測ることができる。そのランクを基に、ユーザーはランク別の求人への応募や、企業からのスカウトもある。現時点(2025年3月)で、paizaを通じた採用人数は約1万人、プログラミングの演習問題は4800問を超える。

 paizaが「異能をのばせ。」をコンセプトに据える背景には、「人の力をうまく引き出して社会につなぎたい」という思いがある。片山氏は、「人の能力をうまく引き出し、得意なことを伸ばすには、競争環境で切磋琢磨(せっさたくま)することが必要で、それを通じて自身の可能性に気づき、能力をさらに向上させることができる。これこそが異能が伸びるということだと考えている」と述べる。

 この理念は、最初のサービスであるスキルチェックに反映されているという。自己評価と実際のスキルとのギャップを可視化することで、企業とのミスマッチを防ぎ、エンジニア自身のスキルアップの機会にもつながっている。「可視化をして、適切な競争環境をつくることが、異能を伸ばすことにつながると考えている」(同氏)

 「異能をのばす」という観点では、同社は「paizaラーニング 学校フリーパス」を提供している。同サービスは、学校の教員から申請があれば、paizaのオンライン学習教材を無料で提供し、生徒や学生のプログラミングスキル向上を支援する。

 今の日本に必要な生産性向上を実現するIT人材は非常に貴重であるが、プログラミングの素質を持つ人材の発掘には時間がかかる。同氏は、「理系・文系を問わずプログラミングに触れる環境をつくることが重要だ。プログラミングに触れる機会を幅広い人に提供して、興味を持ってもらい、IT業界を目指したいという人が増えると良い」と話す。

 学校フリーパスでは、プログラミングに触れる機会とその教材を無償で提供することで、素質のある人材を発掘でき、さらに企業が早期にコンタクトできる仕組みをとっている。また、エンジニアを発掘する意味合いもあるが、同時にpaizaを活用して全ての人がプログラミングを経験する機会でもあるとしている。

 片山氏は、自身のエンジニアであった頃の経験から、プログラミングによる業務の自動化が生産性向上につながったことを振り返り、「プログラミングを経験することは、エンジニアになるということだけでなく、『これは自動化できるのではないか』という視点を持つきっかけになる。それが、なぜ人手でやっているのかという疑問につながり、自動化への機運を生む」とする。

 学校への取り組みはこれ以外にもある。paizaは2025年3月に「女性デジタル人材育成に関する提言」を男女共同参画会議の計画実行・監視専門調査会(第41回)で提出している。同社は、女性ITエンジニアの増加がIT人材不足の解消につながるとして、女性IT人材の育成に注力しているという。

 片山氏は、女性のITエンジニアの不足は、理系の女子学生が少ないという点で構造が同じであると指摘する。内閣府の調査「女子生徒等の理工系分野への進路選択における地域性についての調査研究」(2022年)によると、女性の理工学分野への進路選択には母親の学歴が大きく影響し、理工系志望者の保護者には理工系を先行している割合が高いという。身近に理工系出身の大人がいることが、理系に対する肯定的なイメージにつながっていると考えられる。

 これと同じように、女性IT人材のロールモデルを提示することが、学生にとってIT業界で働くイメージや関心を持つきっかけになるのではないかという。paizaでは、女子高や女子大でIT業界や女性ITエンジニアについて知ってもらう機会を設けている。

 まずはIT業界への興味・関心を高めることが重要であり、paizaのオフィスや働く女性エンジニアの紹介は生徒の関心を強く引いたという。髪型や服装の自由さ、きれいなオフィスが魅力的に映ったとのことだ。今後も女性ITエンジニアのロールモデルに触れる機会を増やしていきたいとしている。

 労働人口が減少する一方で、世帯数の減少は緩やかであり、一世帯当たりのインフラコストは大きく変わらない。そのため働き手の需要は増加し、エッセンシャルワーカーの人材不足がより一層深刻化する。そこで、いかに生産性を向上させるかが重要であり、一人一人が持つ能力を最大限にいかし、社会参加することが不可欠となる。

 そのために、個々の能力を引き上げ、社会の適切な場所につなぐことが重要であり、paizaはスキルの向上とマッチングに注力していくという。片山氏は、「特にラーニングは重要であり、多くの生徒や学生がプログラミングに触れ、素質のある人がIT業界に進むこと、そしてIT業界に進まない人も『プログラミングで何をできるか』を知っているだけでも、自動化に向けた発想ができるようになる。労働人口が減っても、その対応策を皆で考えられる状況になるのではないか」と期待を込めた。

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