NECは5月8日、日本のデジタルインフラの安全性確保に向けてサイバーセキュリティ事業を強化すると発表した。同日に行われた説明会では、事業強化の一環として新設した「Cyber Intelligence & Operation Center」を公開。同センターの正式なオープンは10月で、2026年度にはアジア太平洋(APAC)や欧州連合(EU)、米国にも順次展開していく予定だという。

Cyber Intelligence & Operation Centerの内部
同社は、2024年に中谷昇氏を最高セキュリティ責任者(CSO)として招聘(しょうへい)し、2025年4月にはCSO直下にサイバーセキュリティ部門を新設した。同氏は国際刑事警察機構(INTERPOL)や民間企業における最高情報セキュリティ責任者(CISO)を歴任してきた。

NEC 取締役 代表執行役社長 兼 CEO 森田氏
セキュリティ事業の新たなミッションは「.jp(日本のサイバー空間)を守る」だという。デジタルインフラは電気・ガス・水道だけでなく、交通や物流など全ての産業の根幹を抱えており、サイバー攻撃が社会インフラに対して致命的な影響を及ぼすケースが少なくない。NEC 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者(CEO)の森田隆之氏は「国を挙げてデジタルインフラを守るためには、官民一体での取り組みが重要になる。当社は日本のデジタルインフラを守ることができる存在である」と説明する。
NECは海底ケーブルと衛星通信の両方を提供し、通信の国境を支えるとともに政府や企業のミッションクリティカルシステムである重要インフラを実際のフィールドにおいて守り続けてきた。加えて、日本の価値観や文化に基づいた自社AI「cotomi」や、サイバーセキュリティの専門家集団を保有している。これらの強みを生かして、デジタルインフラを守るという。
「.jpを守る」の司令塔として立ち上げたのが、今回発表されたCyber Intelligence & Operation Centerだ。従来のセキュリティオペレーションセンター(SOC)としての機能に加えて、インテリジェンスドリブンなサイバー攻撃の予兆把握から地政学リスクを考慮したインシデント対応支援・報告までの機能を集約し、日本のデジタルインフラを守るための包括的なサービスを提供する。

NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CSO 兼 NECセキュリティ 代表取締役社長 中谷氏
中谷氏はこの事業を通して「日本のサイバーセキュリティを米国レベルに引き上げる」とし、同センター自体のセキュリティにおいても米国連邦政府のサイバーセキュリティスタンダードである「NIST SP800-53」をベンチマークとして設計したという。同社は、同センターを中心にサイバーセキュリティ事業を展開していくとしている。
サイバーセキュリティ事業の強化では「NEC独自のインテリジェンス」「国産AIセキュリティ技術」「グローバルでの推進体制」――の3つのポイントがあるという。
NEC独自のインテリジェンスでは、「アクショナブルインテリジェンス」がキーワードになる。アクショナブルインテリジェンスは、セキュリティリスクがあった際に、ユーザーが迅速に判断できるような具体的で的確な情報のこと。「IDENTIFY(識別)」「PROTECT(保護)」「DETECT(検出)」「RESPOND(応答)」「RECOVER(回復)」「REPORT(報告)」のエコシステムでデータ保護を強化する。今回強化する部分は、「IDENTIFY」「PROTECT」「REPORT」で、リスクを判定するために重要なインテリジェンスに焦点を当てるという。

データ保護の強化を目的にしたエコシステム(提供:NEC)
具体的には、グローバルな情報源からサイバー脅威情報や攻撃パターンなどの膨大なデータを収集し、データレイクに一元的に蓄積・管理する。これらをAIで分析・可視化して地政学的観点や各国の法規制を考慮した上で、サイバー攻撃の脅威やリスク、対応手段を独自のサイバー脅威インテリジェンスとして提供する。これにより、サプライチェーン全体をカバーした、より高度な戦略立案と脅威への迅速な対応が可能になるとしている。

サイバー脅威分析の流れ(提供:NEC)
膨大なデータを分析するために必要になるのが、国産AIセキュリティ技術の活用だという。サイバー脅威情報の収集・分析・可視化・対処にcotomiを活用し、リスクに対するユーザーの意思決定を支援する。分析から対処まで90%の作業を自動化し、分析結果をリアルタイムに報告するという。法律的なリスクや技術的なリスクなど、さまざまなリスクをAIが可視化し、自動的にスコアリングして対応策の優先順位をユーザーにレコメンドする。10%の手動分析では、関連情報をAIが自動的に収集して、アナリストに提示するなど効率的かつ高精度な分析を支援する。

cotomiを活用したサイバーセキュリティ
グローバルでの推進体制では、APAC、EU、米国のゾーンに分けて展開し、「Follow the Sunモデル」を目指す。Follow the Sunモデルは、グローバルオペレーションの拠点を時差のある複数の地域に分けることで24時間対応できるサービス形態のこと。同日に発表したKDDIとの協業では、この取り組みも視野に入れているという。
グローバルでの推進体制を整えることで、海外の子会社や現地法人がサイバー攻撃で狙われた際に、遠隔でのサポートではなく現地でのサポートが可能になる。「.jpを守るためには不可欠だと考えているため、(グローバル展開を)推進していく」と中谷氏は述べる。