デジタル岡目八目

失敗するオフショア開発、原因はコミュニケーション不足とベンダー選定に

田中克己

2025-05-12 07:00

 「会ったこともない、知らない海外ITベンダーに依頼する」。ベトナムで10年近く受託ソフト開発を展開するスクーティー 代表取締役の掛谷知秀氏は、日本企業のオフショア開発の失敗事例を数多く見てきた。「ドアノックの熱心な営業だったので、とりあえず頼んだ」など、日本ではありえないような依頼もあるのだという。掛谷氏のベトナムにおける経験から、「こうしたら失敗する」を聞いた。

スクーティー 代表取締役の掛谷知秀氏
スクーティー 代表取締役の掛谷知秀氏

 同社は従業員約40人規模の受託開発会社で、最近は生成AIを活用したシステム開発を多く手掛けている。技術的に魅力があり、かつAIでは代替できないビジネスを心掛けているという。そんな中、日本企業がベトナムに発注した炎上プロジェクトを幾つも見た。掛谷氏は「ものすごく遅延している」「ものすごい数のバグが出ている」「旗色が悪くなると、連絡が取れなくなる」――と、失敗する3つの現象を紹介する。

 「相手側のITベンダーだけの責任ではない」と、掛谷氏は指摘する。遅延や品質に関しては、コミュニケーションが取れていないことにある。そのほか「丸投げ」や「相手側に任せきり」「日本のシステム開発方法を現地企業に押し付ける」なども要因にあるという。掛谷氏は「日本の働き方やコミュニケーションが特殊だということを理解しておくこと」とし、その典型に「空気を読む」「阿吽(あうん)の呼吸」「行間を読む」を挙げる。多くの外国人に分かるだろうか。

 「普通にやってくれ」「日本と同じ品質でやってくれ」などの依頼もあるのだという。「普通の基準」や「同じ品質の基準」といった曖昧な内容を、発注者は理解できると思っているのだろうか。「問題はありません」との報告だったのに、突然「間に合いません」となることもあり、発注する日本企業は「進捗(しんちょく)報告の精度が悪い」と嘆く。

 発注先の国の文化を尊重することも重要なこと。掛谷氏は失敗経験から学んだことがあるという。システム稼働がベトナムの旧正月の直前だったプロジェクトに遅れが出たため、出社を求めたところ、チームメンバーの心が離れていった。私生活より仕事を優先させることを要求することに、「やってやれるか」という雰囲気になった。発注先の風習やタブーなども知っておくべきことだと語る。

 その一方で、「なぜ、このプロジェクトを担当するのか」「なぜ、あなたのチームと働きたいのか」など、プロジェクトの内容、意義を共有することも大切だ。掛谷氏は「キックオフは必ず現地で行うこと」と助言する。1~2週間ほどベトナムに滞在し、プロジェクトの価値や会社にとってのプロジェクトの重要性をチームメンバーに伝えることで、メンバーのモチベーションが向上し、取り組み姿勢も変わるだろう。「よしなに」など、行間を読ませるのはNGだ。

 そもそもITベンダーの選定にも問題あることが見受けられる。よくあるパターンは、知らないITベンダーに発注すること。経営者同士の関係から発注するケースも少なくない。結果、求めるスキルと提供できるスキルのミスマッチが生じ、失敗する。大変なのは現場なので、開発チームが納得できるITベンダーを選ぶことや、どの国のITベンダーに発注するかも重要なことになる。オンラインかオフラインか、つまり時差が開発作業に影響する。求めるIT人材の市場があるかどうかも視野に入れておきたい。

 ITベンダーの得意領域を見極める必要もある。開発するシステムと、現地のITベンダーの得意領域がマッチしているかという点だ。得意とするプログラミング言語なども、「意外に抜けている」と掛谷氏は言う。日本企業と海外企業の開発者をつなぐシステムエンジニア(ブリッジSE)の技術力や能力、実績も調べる。「日本語能力試験のN2を持つ人材をアサインする」としか回答しないITベンダーは要注意だという。品質などの評価方法や管理体制があるか、場合によっては要件定義の経験があるのかなどもチェック項目に入れておく。

 掛谷氏が拠点にするベトナムはIT人材が豊富だ。ベトナム政府がIT人材育成に力を入れており、高校生からITに関する知識を学ぶなど、情報工学系人材を大量に輩出する。加えて学習意欲も高いという。ただし、人件費は上がっている。少し古いが、掛谷氏が調べたところ、2010年と2019年の比較で3倍にもなり、マネージャークラスになると700万円と日本とあまり変わらなくなっているという。

 コストを期待するのではなく、ベトナムの豊富な人材の採用、技術力を取り込むことだ。掛谷氏は「相手国に歩み寄る姿勢が重要」とする。

オフショア開発でよくある失敗トップ3とベトナム人エンジニアの強み
オフショア開発でよくある失敗トップ3とベトナム人エンジニアの強み
田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]