内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

DXを現場に根付かせるには--業務現場のIT環境の整備と共創の促進

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2025-05-14 07:00

 多くの企業が全従業員を対象としたデジタルトランスフォーメーション(DX)人材育成に取り組んでいますが、それによって現場での業務変革が劇的に進んでいるかといえば、そうとはいえません。企業は、従業員が自主的に業務現場のDXを遂行できるように環境を整備し、DX活動を支援していかなければなりません。

DX人材育成が研修実施で終わっている実態

 多くの企業が全従業員を対象としたデジタルリテラシー研修を実施しています。しかし、研修・実習を実施するだけで従業員の行動がすぐに変わるわけではありません。企業は、研修・実習を提供して終わるのではなく、各人が自発的に学び、それを業務やビジネスに生かすような行動変容を促すことが重要です。

 本連載の前回「DX研修を行動変容につなげる--変革人材を育む環境整備とは」では、企業は、従業員が研修などで得た知識を、業務やビジネスに生かす機会や場を提供するとともに、そのためのツールを配備するなどして、誰もが意識することなく、自発的に新しい技術や手法の活用に挑戦できる環境を整備することが求められると述べました。

 しかし、全従業員に向けたデジタルリテラシー研修を行った成果として、従業員が自主的に業務現場のDXに取り組むようになったかといえば、必ずしもそうとはいえない状況が散見されます。多くのDX推進担当者やDX人材育成担当者からは「従業員は、研修が終わって現場に戻ると、従来業務が忙しく何も行動を起こしていない」「DXの重要性は理解されたが、各自が何に取り組めばよいかまではわかっていない」といった声が聞かれます。それでは、企業にはどのような環境整備や活動促進が求められるのでしょうか。

DX研修後の活動を促進する環境整備の状況

 まず、DX研修後の活動を促進する環境整備の現状について確認しておきましょう。アイ・ティ・アール(ITR)が2024年10月に実施した「DX人材育成実態調査」では、DX人材育成のための環境整備について、8つの項目について実施状況を問うています(図1)。

 その結果によると「オフィスソフトやコラボレーションツールを誰もが利用できるようにしている」を幅広く実施している企業の割合は31%と最も高く、ある程度実施しているという回答を加えると約4分の3を占めています。しかし、これについてはDX人材育成のためというよりは、通常の業務で利用するためという企業が多く含まれていると考えられます。それ以外の7つの項目は、幅広く実施している企業の割合が2割程度、ある程度実施しているという回答を加えると約6割という結果でした。多くの企業では、こうした環境整備を何らかの形で進めようとしているものの、それは道半ばであるといえるでしょう。

どのような環境整備が求められるのか

 それでは、DX人材育成の成果として従業員に行動変容を促すには、具体的にどのような環境整備が必要なのでしょうか。

 DX人材育成のための環境整備(8項目)に対して「幅広く実施している」と回答した企業における、従業員向けのDX研修・実習における期待に対する成果が「非常にあがっている」と回答した割合を見てみましょう(図2上段)。

 「自らDXを自分事として取り組む姿勢を持つ」という企業の期待に対しては、「ローコード/ノーコードを多くの人が利用できるようにする」という環境整備を幅広く実施している企業において、成果が非常に上がっていると回答した企業が68%と最も多い結果でした。

 また、「デジタル技術を適正かつ有効に活用する能力を身につける」という期待に対しては、「ローコード/ノーコードを多くの人が利用できるようにする」と「社外との連携や協力を促進するための場やコミュニティを提供する」という環境整備を幅広く実施している企業において、成果が非常に上がっているとの回答が58%と同率一位となりました(図2中段)。

 そのほか、DXの重要性を正しく理解する、データを適正かつ有効に活用する能力を身につける、自身の業務を改善・変革する能力を身につける、部門全体の業務を改善・変革する能力を身につける、新規事業・サービスを創出する能力を身につけるなど全8項目の合計では「社外との連携や協力を促進するための場やコミュニティを提供する」「ローコード/ノーコードを多くの人が利用できるようにする」が上位となりました(図2下段)。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]