ガートナージャパンは5月12日、日本企業にとってアプリケーション戦略の策定が喫緊の課題であるとの見解を示した。同社は、アプリケーション/ソフトウェア・エンジニアリング・リーダーは、相互に連携して動くアプリケーション群に関する複雑なポートフォリオを管理し、自社のビジネスに合わせて最適化していく任務があるとする。
同社が2024年9月に実施した調査によると、従業員数1000人以上の国内企業において、IT部門の組織内での位置付けや取り組み姿勢によって、導入済みの業務アプリケーションによるビジネス成果に明確な差が生じているという。ビジネス戦略とアプリケーション戦略の整合性の確保は、アプリケーション組織における最優先事項だ。しかし同社に寄せられる問い合わせから、日本では、ほとんどの企業が体系的なアプリケーション戦略を策定していないと推測されるという。
ビジネス成果を上げている企業では、経営層からのITへの理解が深く、組織の事業においてITが重要な存在として認識されている傾向がある。また、これらの企業は、経営層やユーザー部門、ベンダーといった関係者からの信頼が厚く、経営戦略や中期経営計画をアプリケーション戦略に反映しようと努め、対話を通じて相互理解を深めているという。さらに、IT業務環境の意思決定に経営戦略をしっかりと反映させているという特徴が見られた。
そこでガートナーは、アプリケーション/ソフトウェア・エンジニアリング・リーダーが、アプリケーション戦略を策定するための4つのステップを提示した。
ステップ1では、アプリケーションの役割・価値を示す戦略原則を定める。これは戦略の方向性を示すもので、組織が重視する戦略上の価値を表すルールやガイドラインとなる。策定に当たっては、アジリティー、コスト、ガバナンスといった考慮事項や重要業績指標(KPI)の中で何を重視し、何を見送るかを明確にすることが重要となる。
ステップ2では、アプリケーションの「健康診断」を実施する。アプリケーションポートフォリオの健全性をチェックするために、TIMEフレームワーク(Tolerate:許容、Inves:投資、Eliminate:廃棄、Migrate:移行)を活用する。その上でガートナーは、ビジネス、技術、コストの観点から各アプリケーションの適合性を評価することを推奨している。この際、IT部門だけでなく、ユーザー部門の関係者も交えて、優先的に見直すべきアプリケーションについて合意形成を図ることが肝要となるという。

出典:Gartner(2025年5月)
ステップ3では、ビジネスケイパビリティーの「仕分け」を行う。ビジネスケイパビリティーとは、組織のビジネスモデルにおける価値提案やミッションを実現するために行うべきことをアクション指向で分類したものだ。ガートナーは、ビジネスケイパビリティーとそれにひも付くアプリケーション機能を、ビジネス活動における位置付けと変化のペースに合わせて「革新的」「独自・固有」「共通」という3つのレイヤーに分類し、メリハリの利いた仕分けを行うことを推奨している。
ステップ4では、誰もが直感的に理解できる簡潔なアプリケーション戦略をまとめる。戦略は可能な限り簡潔にまとめ、経営陣をはじめとするステークホルダーに全体像を理解しやすい形で伝えることが重要となる。アプリケーション/ソフトウェア・エンジニアリング・リーダーは、戦略に含めるべきポイントを特定することに注力する。その際、完璧なものを最初から作ろうとするのではなく、関係者との合意形成を進めるためのコミュニケーションツールと捉える。その上で、ビジネス戦略やニーズの変化に応じて柔軟に進化させ続けていく。
また今後、クラウドサービスや組込み型のAIが増加する中、業務アプリケーションの全体感を見失いがちになるという。それを回避するためには、誰にとっても分かりやすく、簡潔で力強いアプリケーション戦略を作ることが企業にとって非常に重要だとした。